『アブラクサスの祭』~ ヘアーのない、スネオヘアーの圧倒的な存在感

  • 2010年12月24日更新

sub1狂おしいまでに音楽を愛していたミュージシャンが、心を病み、音楽をやめて仏門に入る。小さな町でひっそりと生きてきた僧侶、浄念(スネオヘアー)が音楽への断ち切れない思いに気づいた時に、再度、強く思う。「ライブをやりたい」。ミュージシャン、スネオヘアーはもちろん、僧侶を演じるスネオヘアーの存在感は圧巻。歌とともに僧侶としての言葉の響きを堪能していただきたい。12/25(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー

 

死に向き合う僧侶から生まれる鮮やかで狂おしい音楽sub2

福島の小さな町。音楽への強烈な思いからうつ病を発症し仏門に入った過去を持つ浄念(スネオヘアー)。音楽をやめ、寺の住職(小林薫)のもと、日々僧侶としてひっそりと勤めをしている。そんな中、浄念は高校の進路講演会で僧侶という職業についてスピーチを依頼され、壇上に立つ。しかし、彼の口から出てきたのは僧侶の仕事についてではなく、「音楽が終わるのが怖かった」という言葉。封じ込められていた音楽への思いが一気によみがえり、コントロール不能になった浄念は、思いがけず、その気持ちを爆発させてしまう。

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 断ち切れていなかった音楽への思いに改めて気付いた浄念は、もう一度ライブをすることを決意する。一方、小さな田舎町ゆえ、講演会での浄念の奇異なふるまいがあっという間に広まっていた。音楽によってもろく崩れていったかつての浄念を知る妻(ともさかりえ)、彼の音楽に眉をひそめる町の人々、周りの困惑をよそに浄念は生き生きとライブへ向けて準備を始める。そこに、浄念の心をかき乱す出来事が起こる。浄念はこの出来事にどう向き合うのか?そしてライブは実現するのか?

 

スネオヘアーの演技を超えた圧倒的な存在感main

見どころは何と言っても「俳優、スネオヘアー」。アーティストとしては既に高い支持を得ているけれども、今回の注目は僧侶を演じるスネオヘアーだ。子どものように無邪気で純粋、ふるえるように音楽を愛し、そのためにもろくて傷つきやすい。不安定でギリギリのバランスを保ちながら、彼の発する一つ一つのセリフの中にリアルな僧侶としてのメッセージがずしりと伝わってくる。頼りないのに圧倒的な存在感を見せる稀有な存在だ。そしてもちろん音楽。聴くというより、感じる音。作品には死に向き合ったからこそ、くっきりと狂おしいほどに生きる力が浮かび上がる僧侶、浄念の音楽がある。音の持つパワーに魅せられた加藤直輝監督のこだわりを感じて欲しい。
ちなみに、アブラクサスとは、善も悪もひっくるめた、神の名前で「アブラカタブラ」の語源とも言われているそうだ。

 

アブラクサス、ティザービジュアル『アブラクサスの祭』
作品・公開情報
2010/日本映画/113分/カラー
監督・脚本:加藤直輝
原作:玄侑宗久『アブラクサスの祭』(新潮文庫刊)
出演者:スネオヘアー ともさかりえ 本上まなみ 村井良大 ほっしゃん。小林薫
©「アブラクサスの祭」パートナーズ

● 『アブラクサスの祭』公式サイト
※12/25(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー

文:白玉

  • 2010年12月24日更新

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