『CUT』— 映画のために死ねるのか。名匠アミール・ナデリ監督が描く凄まじい「映画愛」

  • 2011年12月16日更新

『CUT』— 映画のために死ねるのか。名匠アミール・ナデリ監督が描く凄まじい「映画愛」
イラン映画界の名匠アミール・ナデリが西島秀俊を主演に迎え、全編日本で撮影を行った最新作『CUT』が公開される。日本映画をはじめとする数々の名画や監督たちへのリスペクトと、映画そのものへの深い愛情が込められた作品であると同時に、シネコン文化をはじめとする現在の映画界へ容赦のない怒りを投げかけてくる。

主人公・秀二(西島秀俊)は、売れない映画監督。商業主義的な映画産業に激しい憤り感じ、拡声器を片手に「映画は芸術である!」と街角で叫ぶ。兄からの援助で映画を撮り続けていた秀二だが、兄が突然亡くなり、自分の映画資金を調達するためにヤクザの世界で借金をしていたことを知る。深い自責の念に駆られた秀二は、殴られ屋をすることで残された借金を返済しようとするが……。



アミール・ナデリ監督と俳優・西島秀俊。2人の映画狂の出会いで生まれた作品。
2005年の東京フィルメックスで西島と出会ったナデリ監督は、すぐに強いシンパシーを感じ「おまえは俺と映画を作る運命にある!」と告げたという。この運命的な出会いにより始動した本作は、日本、アメリカ、フランス、トルコ、韓国、イランという国際色豊かなプロデューサーの参加と11カ国からの出資のもと、『東京公園』の青山真治監督らが脚本協力をして製作された。「殴られ屋」という過酷な役に体当たりで挑んだ西島ほか、脇を固める出演陣は常盤貴子、菅田俊、でんでん、笹野高史らといった日本映画界きっての実力派俳優たちだ。

ナデリ監督の強烈な「映画愛」と「怒り」が役者たちに憑依。
殴られるたびに自分の愛する映画作品を思い浮かべ苦痛に耐える秀二。いつしか、カネの問題では無く、映画への思いだけが秀二を何度も立ち上がらせる。
映画のために死ねるのか—あまりにもストレートなこの命題に対し、自らの肉体をもって応える秀二の姿は、観るものの胸にも強烈な痛みを感じさせる。映画を愛する自由のために母国から亡命し、映画のために闘い続けるナデリ監督だからこそ掲げられるテーマだ。そんな異様な興奮状態のなかで、秀二を冷静に見守る陽子(常盤貴子)の存在だけが凄惨な暴力シーンに秩序と安らぎを与える。髪をショートにし、女性らしい要素は全て排除して挑んだ役ということだが、陽子の存在に強い母性を感じるのは私だけではないだろう。しかし、この陽子にもナデリ監督の中にある穏やかな一面が投影されているのだという。監督自身の強烈な「映画愛」と「怒り」が役者たちに憑依し、全身全霊で体現する姿こそがこの映画の見どころだ。


ナデリ監督が選り抜いた103本の名画が登場。
物語の終盤、秀二は100発のパンチに耐えるため、100本の映画を思い浮かべるシーンがあるが、実際には103本の映画が登場する。監督自身が選んだ作品はいずれも映画史に残る名作ばかり。その中に、あなたの好きな映画が入っているか、また見逃している作品は無いかを探すのも興味深いかもしれない。映画のタイトルは全て英語で表記されているので分かりづらいかもしれないが、どんな映画が入っているのかを是非スクリーンで確かめてほしい。

▼ 『CUT』作品・上映情報

2011/日本/1:1.85
監督・脚本・編集:アミール・ナデリ
脚本:アボウ・ファルマン
共同脚本:青山真治、田澤裕一
出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田 俊、でんでん、鈴木卓爾、笹野高史ほか
制作協力・配給:ビターズ・エンド
コピーライト:© CUT LLC 2011
『CUT』公式ホームページ

※2011年12月17日 より シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて順次公開

文:min

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