第12回東京フィルメックス オープニング作品『アリラン』キム・ギドク監督Q&A

  • 2011年11月23日更新

11月19日第12回東京フィルメックスが開幕。オープニング作品『アリラン』上映後のQ&Aでは三年間の沈黙を続けた巨匠キム・ギドク監督が登壇した。熱心なファンからは多くの質問が投げかけられ次回作に寄せるファンの期待の高さを伺わせた。今回は『アリラン』上映後のキム・ギドク監督Q&Aの模様をほぼノーカット版でレポートします。



オープニング上映『アリラン』キム・ギドク監督 Q&A レポート

映画に対する信念が消え、人に対する信頼の気持ちを失っていた時期にも、誰かが私を作品の世界に読んで欲しいという思いもありました(キム監督)

キム・ギドク監督(以下キム):今年十二回目のオープニング作品に私の『アリラン』を上映していただきまして本当に感激しています。ここにいらしている皆さんは『アリラン』を観たばかりですよね、そういう皆さんの前にいるというのは恥ずかしくて、バツが悪い気持ちです。

林加奈子東京フィルメックスディレクター:ありがとうございます。ドキュメンタリーでもあり、ファンタジーでもあると胸に響く言葉がありました。どこまでが真実でどこまでが現実でどこまでが演出で、真実ってなんだろうと考えさせられるような映画だったんですけれど、あそこには本当に住んでいらっしゃるんでしょうか?

キム:はい、住んでいます。昨日もあそこで寝て、今日こちらに来ました。

ここからは観客の方から次々と質問が寄せられました

質問:住んでいらっしゃる家のドアをノックするシーンがありますが、あれは誰がノックしているのでしょうか。

キム:ドアを叩いたのは皆さんだと思っています。私は以前、一年に一本か二本の割合でコンスタントに映画を撮っていたのですが、2008年から映画を作れない状況になってしまい、そういう中でも私の映画を待っている人がいる、そして早く映画を撮ってほしいと願っている話は伝え聞いていました。ドアを叩いた意味と言うのは「こんなところに閉じこもっていないで早く外に出て映画を撮って欲しい」という皆さんの気持ちがあるのではないかと思い、その表現としてドアを叩くシーンを入れました。個人的な考えなのですが、人は誰でも人生の中でスランプに陥ることがあります。そして思いもよらない事件や出来事に遭遇します。私も事故-ある出来事がきっかけで「自分は映画を撮っていいのだろうか?」という映画に対する信念が消え、人に対する信頼の気持ちを失っていた時期が三年ほどありました。苦しんでいる一方で、ノックをするイメージにもあるように、誰かが私を作品の世界に読んで欲しいという思いもありましたのであのシーンを入れたのです。

(これからもノックをし続けますという質問者の答えを受けて)

私が今いるこの場所、空間自体が勇気をくれるものであり、失ってしまった映画に対する信念を立て直す時間でもあり、人に対する信頼を回復する時間でもあります。

ここで会場より暖かい拍手が起こりました。



質問:『アリラン』という作品の中で制作された15本の中で唯一『春夏秋冬、そして春』を観た際のご自身の反応を見せるシーンがありますがそのシーンを入れたのはなぜでしょうか。

キム:私は15本映画を作ってきました。その中には人生の全体を見回して撮った作品もあれば、個人的なことや、社会のこと、国家などの概念を元にして作った作品もあります。『春夏秋冬、そして春』という作品は人が生まれてから死ぬまでの人生のサイクルを描いた唯一の作品です。私が当時置かれていた状況を考えますと『春夏秋冬、そして春』のイメージと非常に重なるところがありました。人が生まれてから死ぬまでの間に起こる、心の中に積り積もった無念や悲しみ-韓国ではハンといいますがそのイメージとも重なります。そういったことでこの映画に取り入れようと考えたのですが、実際自分自身があのような反応をするとは思っていませんでした。映像を観て、かつての自分の姿を観ているうちに知らない間にあのような反応をしていたのです。


次回作『アーメン』では、映韓国社会において画監督と言う名をもって生きている自分はどうなのか、自分の存在はなんだったのかをもう一度振り返りたいと考えました。(キム監督)

質問:『アリラン』の次の作品『アーメン』を観て監督の今後が気になりました。『アーメン』という作品は監督にとってどのような作品でしょうか。

キム:『アーメン』という作品は『アリラン』の次に作った作品です。カンヌ国際映画祭が終わった後にすぐに韓国に戻らずに、イタリアやフランスを回りながら一人で撮影しました。もう一人出演してくれた俳優がいましたが、出演者はそれだけで、周りの外国の方にサポートしてもらいながら作った作品です。普通、映画を撮る時にはプレプロダクション、撮影、そしてポストプロダクションという過程を経るのですが、そういったものは全くなく、一人で撮りました。その映画を撮った意味というのは二つあります。一つはもう一度自分が映画を撮れるのかどうか自分を試してみたいという気持ち、二つ目は自分自身を振り返ってみたいという気持ちがありました。韓国と言う社会の中で映画監督と言う名をもって生きている自分はどうなのか、韓国社会において自分の存在はなんだったのかをもう一度振り返りたいと考えました。『アーメン』は皆さんにすぐにお見せ出来ないかもしれませんが、少し時間が経ってからいつか必ず皆さんに観ていただきたいと思っています。

質問:次の作品の予定はあるのでしょうか(林加奈子東京フィルメックスディレクターより)

キム:ここで「これを撮ります」というと約束になってしまいますので、今は静かに頭の中で考えているだけで、具体的に何を撮るかは決まっていません。






質問:監督の失ってしまった映画に対する信念は取り戻すことが出来たのでしょうか?

キム:まだ、完全に回復したわけではありませんが、その間、様々な旅をしたり、多くの人の人生を見ることにより、今また、「人生の価値とはなにか?」「人間の価値とはなにか?」を考えるようになりましたし、まだ分からない“人の秘密”というものがあると思うのでそういうことをたくさん考えるようになりました。


実は私はいつか映画が撮れなくなる日が来るとずっと思っていました。(キム監督)

質問:映画に出てくる小屋について、電気が通っていたり、人家が近くに見えたりと隠遁地としてはビミョーなところのように思えるのですが、隠遁地としてなぜあの小屋をえらばれたのでしょうか?

キム:実は私はいつか映画が撮れなくなる日が来るとずっと思っていました。もし自分が映画を撮れなくなった時には静かな田舎に行って農業でもしながら暮らそうと思い10年くらい前に準備していた家です。それからずっと映画を作り続けていたので、あの家に行くことはありませんでしたが、今から三年前に試練に遭い、ある日気がついてみたら、人の目を離れるようにしてあの場所にいました。そして他の人にも会わないという生活になっていました。『アリラン』のいう映画も最初に作りたいと思って作ったというよりは、とても寂しかったので、自分を写してみて、自分と向き合ってみてそして撮っているうちに映画として完成させることになったのです。



悲しみの時間でも、一つのサイクルの中でもう一度、幸せの時間が訪れます。あまりにも寂しくて『アリラン』という映画を作った結果、たくさんの人の前で、笑顔で色んなことが語れる現実にめぐりあいました。(キム監督)

質問:どうしても避けられない不条理や悲惨なことがあり、生きていく中では、つきあっていかなければなりませんが、孤独や寂しさ、業やハン(韓国語で心の中に積り積もった無念や悲しみ)そういったものとどのように向き合っていけばよいとお考えでしょうか。

キム:そういった問いかけが私自身にもあったからこそ『アリラン』を作りました。私は『春夏秋冬、そして春』という作品を作りましが、春、夏、秋、冬という四つの季節はそれぞれ全く違うものです。それと同じように人生の一瞬一瞬、その瞬間というのは(それぞれが異なり)人に変化を与えるものです。ある時は苦しんだり、悲しんだり、幸せを感じながらも絶望を感じるというプロセスを経て、人生という器が満たされて行くのだと思います。私自身も、先ほど言ったようにある事件をきっかけに映画に対する信念を失い、人に対する信頼を失いましたが、またもう一度仕事に対する信念をもって、人を信じるということを諦めないようにしようという思いがあります。そういう思いに支えられて『アリラン』が出来ています。今、日本は全世界の中でも最も苦しい状況におかれている国だと思います。そういう中にあっても、人は信念や信頼を諦めてはいけません。私は人間のエネルギーはとても強いものだと信じています。放射能の何百倍も何千倍も強いのが人のエネルギー、信念だと思います。時間はかかるかもしれませんけれど、いつかは必ず、今、抱えている悩みや苦しみは解決されるでしょう。今は悲しみの時間かもしれませんが、一つのサイクルの中でもう一度、幸せの時間が訪れると思います。私はあの映画に出てきた小屋の中であまりにも寂しくて『アリラン』という映画を作るに至ったのですが、その結果、今たくさんの人の前で、笑顔で色んなことが語れる現実にめぐりあいました。

最後にキム・ギドク監督が映画の中でに出てくる「アリラン」の一節を熱唱し大きな拍手が沸き起こりました。

※ 『アリラン』は、2012年3月より、渋谷シアターイメージフォーラムにて公開予定。『アリラン』は、2012年3月より、渋谷シアターイメージフォーラムにて公開予定。



▼第12回 東京フィルメックス
期間 2011年11月19日(土)~27日(日)
会場 有楽町朝日ホール 他
主催 特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
「第12回 東京フィルメックス」公式サイト
※特集上映には、会場が異なるものもございます。詳細は上記の公式サイトをご参照ください。

文・編集:白玉  キム・ギドク監督Q&A写真提供:東京フィルメックス






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