『家族X』吉田光希監督×ヤン・イクチュン監督×南果歩さんトークショー

  • 2011年10月26日更新

 誰にとっても一番近くて一番遠い存在である“家族”という存在の不確かさと危うさに真摯に迫った映画『家族X』。吉田光希監督は、今年5月の全州(チョンジュ)国際映画祭で『息もできない』のヤン・イクチュン監督と出会い、期間中、昼間は映画を観て、夜は毎日イクチュン監督とお酒を飲んでいたそう。すっかり意気投合した二人だからこその熱い映画論も飛び出したトークショーが10月22日ユーロスペースにて行われました。新進気鋭の二人が語る『家族X』とは。主演の南果歩さんも、お二人のお話が聞きたいからと会場に駆けつけてくださいました。

何かが起きた後に一人になったときがもっとも孤独を感じる瞬間(吉田監督)。
 吉田光希監督(以下吉田): まずは『家族X』の印象を聞かせてください。

ヤン・イクチュン監督(以下イクチュン):最初に感じたのは、この家族はなぜこんなに無口なんだろうということでした。人は必要なことを話して生きているというより、必要のないことを話しながらお互いの関係を維持しているのではないかと思います。しかし、この家族は本当に最低限のことしか話さないので、もっとオープンにしたらどうかと思いました。いっそ派手に喧嘩をするのはどうだろうか。そうすることによって自分の心が外に向かっていくと思いましたが、喧嘩をしようと思ってもその前でとどまってしまうところがあります。この映画に限らず韓国の家庭にもこういった問題は存在しています。

吉田: 何かが原因で破たんしてしまったとか、そういうエピソードではない映画にしたかったんです。すでにコミュニケーションがなくなってしまっていることさえも危機感を感じなくなってしまっている、それが当たり前になってしまうということが彼らにとってもっとも孤独な気がしたので、沈黙している時間に眼差しを向けたかったのです。一番寂しさを感じるときって何か出来事が起きた時ではなく、その後一人になったときだと思うんです。例えば、食事を食べてもらえなかったその瞬間の悲しみよりも、その後一人でキッチンに戻っていく時間がもっとも孤独な時間なんじゃないかと。そういう沈黙の中にある心情をカメラでとらえたいと思っていました。

イクチュン: この家族は一人息子でしたが、子供が二人、三人いたらまた違った家族の在り方があったのかなと思いました。

(イクチュン監督が)自分の感情よりカメラの感情は超えてほしくない。俳優よりも強いエモーションで撮られるのは嫌だ。という話が印象的でした(吉田監督)。

吉田: 三人家族というのは、実は僕がモデルだったりするんです(笑)自分の中にあるものをひとつ映画の中にキッカケとして入れてもいいなと思っていたので。イクチュン監督の『息もできない』では、サンフンが父親に暴力を奮いますが、それは関係を取り戻したいけど暴力でしか表現できないという寂しさに感じました。『家族X』では、それが路子にとっては料理を作ることで、関係を取り戻したいけど遮断されてしまう。関係を取り戻そうとするけれど、うまくいかないという構造は共通して見えました。

イクチュン: 誰もが誰かしらに情を感じてほしい、情を受け取ってほしいと思っていますが、路子はどこにも情を向ける相手がいなかったから料理と友達になった気がします。『息もできない』を撮ったときに感じたのは、家族というものはいい友達になるべきだということでした。友達というのは、ときにはつれない態度をとることもあるかもしれないけど何か理解できるものがある。子供が2、3人いれば家族の中で友達の体験ができるのかなと思います。友達の関係をつくれない家族は苦しいものがあるのかなと思いました。

吉田: (イクチュン監督が)自分は俳優でもあるから、どう撮られたいかという話をしてくれたんですね。自分の感情よりカメラの感情は超えてほしくない。俳優よりも強いエモーションで撮られるのは嫌だ。という話が印象的でした。今回、僕は路子の内面にどう眼差しを向けようかと手持ちカメラを多用したんですけど、イクチュンの言葉を聞いて、たしかにカメラが動かない引きの画でも俳優さんの感情を捉えることができるなということにハッと気がつきました。現場では監督の指示でもなくカメラマンの動きでもなく、カメラが演技するときがあるんですよね。それをどうコントロールできるかというのは次なる課題だなと思いました。

俳優さんの感情が高まったらとにかく追う。その瞬間が魅力的だから(ヤン監督)。
イクチュン: 『息もできない』を撮ったとき、撮影監督とこんな話をしていました。もし俳優さんの感情が高まったり、俳優さんが何らかの感情を自ら示してくれたら、こちらからは指示をせずにとにかくついていこうと。監督やカメラが何かを付け加えたりするのではなくて、とにかく俳優さんを追っていこうと話していました。そうゆう状況になれば、監督も撮影監督もすでに俳優さんの演技、感情にのめりこんでいるので、その瞬間は非常に感動的で魅力的な瞬間になるのです。

吉田: 僕もこの映画に関しては、画面をデザインするとか構成を作るということは必要ないと思って。シナリオを受け取ってくれた俳優さんが何を表出させてくれて、それをどう捉えるかということを一生懸命考えました。それで割と追いかけるような場面が多くなったんですけど、それは現場で僕が信じることができたものだったし、それでいいなと思える瞬間があったので、こうゆう作りになりました。

お二人の話を聞いていたら、また映画をやりたいなという気持ちになりました(南果歩さん)
ここで、南果歩さんがご登壇されました。
南果歩さん(以下南) :お二人の話を聞いていたら、また映画をやりたいなという気持ちになりました。『家族X』と『息もできない』は対照的な家族が出てきますが、『家族X』はコミュニケーションがなくなっている状態も分からない、コミュニケーションの仕方が分からなくなっているけれど、その懐に飛び込みたいという家族のぶつかり合いがあります。でもどちらにしても家族がとても身近で無視できない、なんとかして自分の中でいい関係を持っていこうという、これは永遠のテーマだなと思いました。

吉田: 『家族X』も息できてないですよね(笑)映画のタイトルが『息もできない』でも違和感ないなと思いました。圧迫した家族の状況が描かれているなと改めて思いました。

南さんの感情表現が見事。観ている自分も砂漠になったよう(ヤン監督)。
イクチュン: 今回の南さんの演技を拝見して、本当にドライな部分をうまく表現されているなと思いました。韓国の母親は、日本の母親に比べて感情を外に出す人が多いです。でも韓国の母親も家族がいないときは、路子のようだったのではないかと思いながら観ていました。(路子が)一人でいるときの感情表現が見事で、拝見している私自身も自分が砂漠になったような気持ちになったんですね。熱演に本当に感謝いたします。

南: それに関しては、吉田監督の演技指導がすごく大きかったです。最初の洗濯物を干すシーンで、私も結構表に出すタイプなので洗濯物をバンバンやっていたんですけど、路子はそうではないと。洗濯物の干し方に関しては結構時間をかけました。初日にそれをやって、路子のものに対する(感情の)出し方とか、感情の押しこめ方など、すごくヒントをいただきました。路子像はほとんど吉田監督の想像するところでした。

吉田: まさに今始まった家庭崩壊ではないという意味も含めて、ファーストカットで(家族)写真を長く映しました。過去から続いているもの、そして今の橋本家というところから始まりたかったので、決して強い感情ではない。慣れてしまった年月が経っている家族だなということで、そのようなお芝居をお願いしました。

まだまだお話が尽きない感じでしたが、残念ながらここで時間切れに。南果歩さんの渾身の演技はもちろんですが、吉田監督の一場面一場面への思いを知ることができ、作品への思いが一層深まるトークショーでした。何といってもイクチュン監督と楽しくお話ししながらも、意見を聞くときの吉田監督の真剣な眼差しが印象的でした。『家族X』の公開はいよいよ10月28日まで。現代社会の問題をはらんだ家族の姿を体感してみてください。



▼『家族X』 作品・公開情報
日本/2010年/90分
監督・脚本:吉田光希
出演:南果歩、田口トモロヲ、郭智博、筒井真理子、村上淳、森下能幸

PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)/ リトルモア提携作品
配給:ユーロスペース+ぴあ

●『家族X』公式サイト
※9月24日(土)より、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!
(C) PFFパートナーズ

文・撮影・編集:那須ちづこ

  • 2011年10月26日更新

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