『砂の影』上映+トークイベント@COFFEE&EAT IN toki—西荻窪の隠れ家的カフェ・バーで聴く甲斐田祐輔監督と菊地成孔さんの濃密トーク。

  • 2011年10月10日更新

2011年8月21日(日)。東京・西荻窪の隠れ家的なカフェ・バー兼輸入ポスターショップ「COFFEE&EAT IN toki」で、2008年に劇場公開された甲斐田祐輔監督作品『砂の影』の上映、そして監督本人とミュージシャンの菊地成孔さんをゲストに迎えてのトークイベントが行われた。観客は店の座席数である20名ほど。映画好きなオーナーが不定期に開催しているというトークイベントは、ゲストと客席の距離がとても近く、まるで友人の家に遊びに来たような温かな雰囲気だった。(写真は、司会進行役を務める店のオーナーのサトウマコトさん・左、甲斐田祐輔監督・中央、菊地成孔さん・右)

トークゲストと観客の距離の近さから生まれる、濃密な空気感

ゲストの甲斐田祐輔監督と、店のオーナーであるサトウマコトさんはかつて同じカフェに通っていた常連客同士だった。そんな二人が、過去にこの店のイベントに出演したゲストを通して再会し、今回の『砂の影』の上映会が実現したという。もう一人のゲストは音楽家、文筆家のほか、ラジオでも絶妙なトークを聴かせる菊地成孔さん。甲斐田監督が菊地さんの主催するパーティーイベント『HOT HOUSE』のPV撮影と編集を手掛けたことから、是非とも出演してほしいと、サトウさんからオファーしたのだそうだ。

当日はUSTREAM中継も入ったが、豪華なゲストとの濃密な空気感を共有できるのは、この場所に居合わせた人にだけ与えられた特権。美味しい食事を楽しみながら作品を鑑賞したあと、いよいよトークゲストが登場すると、ゆるやかに流れていた会場の雰囲気が少し熱を帯びた。

『砂の影』—8ミリ独特の粒子の荒い映像に映し出される、妄想と実像の曖昧な境界線

映画を観ていない方のために、軽く作品紹介をしておこう。
映画『砂の影』は、80年代に実際にあった“練馬OLラストダンス殺人事件”を出発点に描いた、甲斐田祐輔監督の2008年公開の異色作。日本映画界における名シネマトグラファー、たむらまさき氏が全編8ミリでの撮影監督を務めたことでも話題を呼び、その年のロッテルダム映画祭にも正式出品された。恋人を殺し、妄想の戯れにふけりながらその死体と暮らすユキエ(江口のりこ)を会社の同僚の男、真島(ARATA)が好きになることで、ユキエの作り上げた世界のバランスが崩れ始める—。しかし、本作では、はっきりとした殺人シーンや主人公の詳細な心理描写はなく、8ミリで撮影された粒子の荒い映像と独特のカメラワークが主人公の妄想と現実を曖昧にとらえ続ける。

「事件の詳細を、あえてまったく知らずに描いた」(甲斐田監督)

サトウマコト(以下、サトウ) プロデューサーであるスローラーナーの越川道夫さんからはどういう形でオファーを受けたのですか?

甲斐田祐輔(以下、甲斐田) 20年くらい前にこういう事件があったという話をされて、あとは8ミリでやろうということでお話をいただきました。

菊地成孔(以下、菊地) 実際の事件では、なんで恋人を殺すの?

甲斐田 事件のことは、こういう事実があったということしか知らないので……。わからないです。

菊地 なるほど。わからないことは、わからないという形で映画に反映されているんだ(笑)。

甲斐田 その感じは多分出ていると思います(笑)。

サトウ 実際の事件では、たしか愛情があって殺したわけじゃなかったですよね。

甲斐田 愛情があったかどうかというのは、本当のところはわからないじゃないですか。言葉で愛しているって言うけど、行動がイコールかどうかは端から見たら微妙だったりするわけで。見ているものが皆違うわけだから、全部がずれていくみたいな感じになったら面白いと思ったんです。

「殺人シーンはないけど、怨恨が起こりうるエッセンスには説得力がある」(菊地さん)

菊地 最近は通り魔的な殺人が増えて、いわゆる怨恨による殺人が減っている傾向にあるそうですが、昔のATG作品、例えば水谷豊さんが主演した『青春の殺人者』(76年)のように痴情のもつれや、怨恨の部分を濃密に描くということにはあまり興味がないんですね?

甲斐田 一応は描いています。80年代以前のATG作品などはその部分を太く描いていると思いますが、(この作品は)細いですね。だから、怨恨と認知されるかは微妙ですけど。

サトウ 撮影監督のたむらさんは、それこそATGを支えていたような方だったと思いますが、こういう作品を撮るにあたって、なぜ殺人シーンが出てこないんだとか、痴情のもつれのシーンはないのかという要求はなかったのですか?

甲斐田 要求というのは無かったのですが、その部分が混沌としていたので現場の皆が迷う方向には行ってしまいましたね。

菊地 殺人シーンもないし、痴情のもつれや、殺人に繋がるような長芝居もないけど、怨恨が起こりうるだろうなというエッセンスとして、主人公の女性にはとてつもない性欲があるというのは描かれていますよね。「外では仮面を被ったように生きていて、部屋に帰るとあんなにエロくなるなら、殺すわな」っていう説得力は生じている感じがしました。でも、現場は混沌としたんだ?

甲斐田 大混沌ですね。(場内爆笑)

「豪華なキャストとスタッフで作った、自主制作映画のような風合いの珍しい映画」(菊地さん)

サトウ 8ミリでやるっていうのは、甲斐田さんにとって、エフェクト的な要素があるのですか?

甲斐田 いや、最初は8ミリで撮ることには抵抗がありました。同録もできないし。やりながらも、その良さはあまりわかっていなかったですね。

サトウ でも、観る方からすれば8ミリの荒い質感が出ていて、それが物語とリンクするような感じがしたのですけど。

甲斐田 結果、そういう感じになった気がします。

菊地 この映画は、有名な俳優の出てくる、自主制作映画のような画質を持った映画ということで、凄く珍しいなと思ったんです。そこが面白いですよね。

甲斐田 すべてが変ですよね(笑)。

「部屋と会社の倉庫のシーンは結界的に繋がっているんです」(甲斐田監督)

菊地 死んだ恋人とのアンリアルな関係が、ARATAさん演じる真島というリアルステージの人間から好かれて、そちらもちょっと良くなってきてしまって、壊れそうになる。その反動で何か破壊行為に出るのかというと、結局何も起こらないですよね。ただ死体が発見されるだけで。

甲斐田 そうですね。その「状態」を描いているんです。

菊地 真島の力で何かが起こる、というところまでは行かないのですね。

甲斐田 真島に対しては、恋愛でもあり、恋愛なのかな? というハテナもあって、死体と暮らしている部屋と真島のいる会社の倉庫というのは、結界的に繋がっていると考えているんです。だから、会社から家に帰るときにバスがトンネルを通ると、あそこで結界が消えてしまう。

菊地 外の公園で真島とデートの待ち合わせをして、結局は行かないけれども、ようするに恋愛の入り口が公園に設定されたときに、主人公が大変錯乱するじゃないですか。その結果、いままで隠していた死体が光石研さん演じるアパートの管理人に見つかってしまう。

甲斐田 結界が崩れることで、洪水のような形で死体が発見されるんです。

菊地 じゃあ、真島の存在で最後に結界が崩れるという影響が出たということですね。

甲斐田 そうですね。

撮影当時の迷いや現場での裏話などを素直に話してくれた甲斐田監督と、豊富な映画のボキャブラリーでするどく作品に切り込む菊地さん。ここではトークの一部をまとめた形で掲載したが、全容を聴きたい方は、配信中のUSTREAMをチェックしてほしい。作品を観ていない方は是非とも発売中のDVDで!

▼『砂の影』DVD好評発売中監督:甲斐田祐輔
出演:江口のりこ ARATA 米村亮太朗 ほか
2008年/日本/76分
価格:¥5,040(税込)
発売元:エキスプレス
販売元:オデッサ・エンタテインメント

「COFFEE&EAT IN toki」—不思議な居心地の良さに包まれて、ゆっくりと時を過ごせる店。

西荻窪北口から駅前の商店街を3分ほど歩き、細い路地を少し入ったところにある「COFFEE&EAT IN toki」。アンティークのカメラや映画のポスター、古いジャズのアルバムジャケットなどがディスプレイされた店内では、不思議な居心地の良さに包まれながら、コーヒー、お酒、食事を楽しめる。「変な店にしたかったんです」というオーナーのサトウマコトさん。6年前のオープン当初から、音楽ライブや映画のトークイベントを行っている。毎年2月に開催しているジョン・カサヴェテス監督のイベントには加瀬亮さんが登壇したり、今年の6月には、映画評論家であり爆音映画祭を主催する樋口泰人さんと作家の角田光代さんの対談が行われたりと、そのラインナップも興味深いものばかり。「企画から、予約の受け付け、当日の料理まで一人でやるので大変です」と言いながらもその笑顔はとても楽しそう。そんな、サトウさんとの会話を楽しめるのもこの店の魅力の一つだ。西荻窪に行った時には、気軽に立ち寄ってみてほしい。

▼『COFFEE&EAT IN toki』
住所 東京都杉並区西荻北3-18-10 2F
営業時間 平日18:00~24:00(L.O23:30)  土日祝 15:00~24:00(L.O23:30)
定休日 火曜日
※これから催されるイベント情報などはお店のホームページをチェックして!

取材・編集・文:min スチール撮影:min(トークイベント取材)・柴崎朋実(店舗取材)


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