『ミラル』―『潜水服は蝶の夢を見る』のシュナーベル監督が紡ぐ、紛争の地での愛と希望。

  • 2011年08月07日更新

約半世紀に渡るイスラエルとパレスチナの紛争。1948年にイスラエルが誕生してから、1994年のオスロ合意という希望が見えるまでの、パレスチナ地区の複雑な政治的現実を背景に、この地で生きる4人の女性の人生を描く。『潜水服は蝶の夢を見る』、『バスキア』のジュリアン・シュナーベル監督が、『スラムドッグ$ミリオネア』で一躍注目を浴びたフリーダ・ピントと、『扉をたたく人』、『シリアの花嫁』の名女優ヒアム・アッバスを迎え、紛争の地の現実とともに、愛と希望を紡ぎだす。

― 学びから希望が生まれる。教育こそが最良の武器。

1948年、イスラエル建国宣言の1ヶ月前のエルサレム。ヒンドゥ(ヒアム・アッバス)は路上で、イスラエル軍の侵攻によって孤児となった55人の子供たちに出会う。ヒンドゥは行き場のない彼らを自宅に連れ帰り、空き家となっていた祖父の家で保護することに。これが、のちに3,000人以上の子供たちが学びながら生活する学校「ダール・エッティフル(子どもの家)」の始まりである。「子供たちは宝。子供たちを教育し、希望を与えること。力でなく教育こそが最良の武器」と考えるヒンドゥは、惜しみなく私財と生涯を学校につぎ込んだ。

― 「未来を変えたい」というミラルの強い思い。

1978年。母を亡くしたミラルは、父の決断によりダール・エッティフィルの門をくぐる。ヒンドゥの元で教育を受け美しく芯の強い17歳に成長したミラル(フリーダ・ピント)は、ある日難民キャンプを訪れる。そこで目にしたのはイスラエル軍によって容赦なく家屋が壊される光景。今まで自分はヒンドゥと学校に守られていたのだ。ミラルは衝撃と憤りを抑えられず政治への関心を強め、インティファーダ(蜂起)に参加するようになる。だがそれは、「愛と教育が平和への道」というヒンドゥの教えに背き、そして、娘の身を案ずる最愛の父親の想いを裏切ること─。ただ耐えしのばなければならないのか、行動を起こすべきか。時代の波に飲み込まれながらも、未来を変えたいという強い意志でミラルは突き進んでいく。

― ヒンドゥの教えを受けた原作者ルーラ・ジブリール

原作・脚本のルーラ・ジブリールは、ダール・エッティフルで育ち、ヒンドゥの教えを受けてきたジャーナリスト。まさに「ミラル」である。プレスの写真を見ると、フリーダ・ピント演じるミラルに雰囲気も似ている。彼女は、ジャーナリストとして、イラクやアフガニスタン、パキスタンの紛争を目の当たりにして、教育こそが最良の武器だとよく分かったという。教育がいかにして狂信を和らげぬぐい去ることができるか、本作を通して教えてくれている。

― いまも続くパレスチナ問題

イスラエルとパレスチナの問題は背景が複雑である。なので、できれば鑑賞前に本作の公式ページでパレスチナ問題について目を通しておくことをおすすめしたい。さらに、より深い知識をお持ちであれば本作を堪能できることは言うまでもない。

1993年の和平合意から15年以上たったいまもパレスチナにおける和平は実現していない。パレスチナ人は22%の土地しか得られておらず、革命家ハーニのセリフにもあったように、この道のりは血みどろで出口がない。しかし、ヒンドゥの教えを受け継いだ非戦の心を持った子供たちが育っているのも事実。正しい教育こそが平和な国を作っていくのだ。時間はかかっても、彼らやその子供たちが少しずつ未来を変えていけると期待したい。

エンド・クレジットでトム・ウェイツの曲を聴きながら、監督やスタッフからのメッセージが心に沁みてきた。本作の製作にイスラエルが参加していることに一縷の希望を感じた。

▼『ミラル』作品・公開情報
フランス・イスラエル・イタリア・インド/2010年/112分
原題:”Miral”
監督:ジュリアン・シュナーベル
原作・脚本:ルーラ・ジブリール
出演:フリーダ・ピント ヒアム・アッバス ウィレム・デフォー
配給:ユーロスペース+ブロードメ ディア・スタジオ
コピーライト:(C)PATHÉ – ER PRODUCTIONS – EAGLE PICTURES – INDIA TAKE ONE PRODUCTIONS with the participation of CANAL + and CINECINEMA A Jon KILIK Production
『ミラル』公式サイト
※8月6日(土)より、渋谷ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!

文:那須ちづこ


  • 2011年08月07日更新

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