『美女と探偵 ~日本ミステリ映画の世界~』芦辺拓さん、北村薫さん、有栖川有栖さんトークイベント―『混浴露天風呂連続殺人』、うな重とシャーロット・アームストロング、そして…止まらないミステリ映画話

  • 2011年08月06日更新

神保町シアターでは本格ミステリ作家クラブ十周年との連動企画として「美女と探偵 ~日本ミステリ映画の世界~」の会期中「本格ミステリ作家クラブ」会員の芦辺拓さん、有栖川有栖さん、北村薫さんのトークイベントを開催。上映作『空白の起点』を始め、芦辺拓さんのお勧め火曜サスペンスベスト3、有栖川有栖さんの『安楽椅子探偵』の今後と、三方のお話は奥が深く尽きることがありません。ミステリ好きも映画好きもチェックすべき話題が満載のトークイベントの模様を『ミニシアターに行こう。』がレポートします。

笹沢さんの『空白の起点』を読んだときに40年前だけど、これ1作あれば軽々しくそういうことは書けないと思いました(北村さん)
芦辺拓(以下芦辺):ミステリー映画の人気もさることながら、有栖川、北村両氏の人力も大きいということで、お運びありがとうございます。今日の映画(『空白の起点』)をご覧になっていかがでしたか。有栖川さんは笹沢佐保さんが亡くなった時の追悼文も書かれていて、笹沢ファンでもあるわけなんですけれど。
有栖川有栖(以下有栖川):今日の映画、鬱陶しい話でしたけれども懐かしい電車がいっぱいみられて良かったですよ。
芦辺:そこですか。
有栖川:すごく変わったトリックなんですよ、これ。珍品というか。原作と違う。おやじが赤と白のハンカチをどっちか見ようと落ちてしまうという。そんなことして落ちるなんて限らないじゃないですか。それで構わないんです。もしかしたら落ちるかもしれないという、いわゆるプロバビィリティの犯罪を遠隔殺人でやってしまうという変わったトリック。
北村薫(以下北村):私も単行本で読んでそうだろうなと思いつつ、動機がとけないのね。娘が父をというのが解けなくてね、これは人間として一番の勇気だし、「孤愁の起点」はこの題と絡めたら分かると思って。昨今まるでブームのように新人賞の選考でそういう問題を扱ったのが5作中3作ぐらいありますね。
芦辺:近親的なことであったり家庭内暴力であったり虐待とかですね。
北村:笹沢さんのこれを読んだときに、私はこれは書けないなと思いましたよね。40年前だけど、これ一作あれば軽々しくそういうことは書けない。
芦辺:そうですねぇ。今、新人賞の選考をされていると、トラウマものが多いというのも聞きましたけれども。
北村:ちょっとどうかと思うところがあります。ブームのようにやってもらいたくはない。
芦辺:笹沢さんというと伝説の作家であるわけなんですが、おふたりはお目にかかったことはあります?
北村:遠くから見たことあるのかしらってかんじ。
有栖川:わたしはないんですよ。お会いしたことがないから憧れます。

うな重がすごかった。シャーロット・アームストロングはうな重を書いてないけど。ほんの一瞬でこいつらが分かるのね。(北村さん)
北村:先週観た『誘拐』と『影の爪』はすごい良かったよ。高木彬光先生原作の『誘拐』は冒頭のところが面白いんですけれど、映像化したら犯人分かっちゃうから、出来ないだろうと思っていたらちゃんと見せるんですごいなと。これから(『美女と探偵』の上映では)観られないけれど、再来年とかにはやるかもしれない。
芦辺: CSで放映されたことあるので、機会はあると思います。
北村:非常にちゃんとやってくれるんだって感心しました。『影の爪』はすごく感心しましたよ。原作は創元推理文庫のシャーロット・アームストロング『あなたならどうしますか』っていう傑作短編集の『あほうどり』で、テレビでも2回ぐらいやっている。芦辺さんは型どおりだっていうんだけど。
芦辺:あのまぁ、たまたま読んだら傑作でしょう。
北村:言えないんで、もどかしいんだけど、初めてあの手のタイプをやった映像はすごい。きれいなカラーでみせて欲しかった。
芦辺:そうですね。本当に真っ赤に焼けてしまったフィルムしかないんで。
北村:細かい部分は、細かい部分ですごく納得させられるところがあるんです。うな重がすごかった。シャーロット・アームストロングはうな重を書いてないんですよ。原作では姉妹だけど、映画では母親と岩下志麻。悪女が表面上はいい人らしくしているけれど、とんでもないくわせもんっていうのにふたりで昼間から、うな重とって食べている。「近頃はウナギもまずくなった」とか贅沢なこと言いながら。今なら、うな重を毎日食べている人もいるかもしれないけれど、あの頃、昼間、客も来ないのに二人で平気で食ってて。ほんの一瞬でこいつらが分かるのね。そういう部分がいっぱいある。非常に見事な脚色だと思ったんです。
芦辺:生活感みたいな人間描写はかつての日本映画の得意技ではありましたよね。
北村:今度上映するときにお楽しみください。

『乱れからくり』- 映画版で省略されたのミソ中のミソである巨大迷路がテレビ版ではなぜかある。制作会社が円谷プロで特撮使ってるんですね。(芦辺さん)
北村:企画力の勝負っていうか、びっくりしたのは、『乱れからくり』のテレビ版。
芦辺:なんべんも言ってますが、劇場用より出来がいい。
有栖川:あれを映画館でやったら値打ちがあるということで。
芦辺:監督が佐藤肇っていう、日本唯一の怪奇映画の監督で映画祭で上映されたっていう形跡があったんで、フィルムは絶対あるはずだと。
北村:テレビをこの画面でやったという。
芦辺:映画では松田優作がやったんですが、(テレビ版は)面白いですよ。柴田恭兵の若いこと。女探偵、宇内舞子の役を古城都さんっていう宝塚スターがやっている関係で、元タカラジェンヌの私立探偵という強引な設定になっていて、突然ドラマの途中で歌い踊ったり。劇場版には予算がないという理由で、『乱れからくり』のミソ中のミソである、巨大迷路が省略されたんですが、テレビ版ではなぜかある。
有栖川:映画が省略したものをテレビがやってるの?
芦辺:制作会社が円谷プロなんですよ。特撮使ってるんですね。
北村:TSUTAYAとかには出ないの?
芦辺:ないですね。火曜サスペンス傑作選を出すっていう話があったんですけれど、その後どうなったのか。火曜サスペンスって結構バカにならなくて、僕のベスト3は岡嶋二人さんの「99%の誘拐」、島田荘司さんの植木等主演ドラマ「火刑都市」これ大傑作です。三番目は、斎藤栄さんの「真夜中の意匠」って作品を『不在証明』っていうタイトルで、アリバイが四重五重になっている話。三作の共通は伊原剛っていう役者が全部容疑者なんですよ。僕は伊原剛容疑者三部作と呼んでいるんですけれど。
北村:そういうものを例えばここでみられたりするんですか。
芦辺:ビデオを上映する方法があれば十分にやる価値はあると思いますね。ビデオ上映みたいなものはできる・・・できます?できるそうです。美女と探偵2が行われた際にはぜひ推薦したいと思いますが。

土曜ワイド『混浴露天風呂連続殺人』はカーター・ブラウンのアル・ウィーラー警部シリーズだったんです。(芦辺さん)
北村:是非こういう企画を続けて欲しいですね。
芦辺:フィルム撮りしたものは(上映)可能ですしね。お二人は自作の映像化という経験があるわけなんですけれど、その感想とか、活字と映像の違いとか、いかがですか?「双頭の悪魔」はWOWOWで、大変な大作で。
有栖川:WOWOWの方がロングバージョンで5夜連続。長いほど面白い。
有栖川:北村さんはいろいろ。
北村:わりあい納得できるというか、だいたいOKでしたね。よくやっていただいています。
芦辺:映像化の相性ってあるんですかね。映像と本格ミステリとの相性はどうでしょう?
有栖川:思ったこと言っていい?新本格の特徴は映像化されない。映画の人が興味ないんじゃないかな。新本格に出てくるような人間に。そんな気がすんねん。
芦辺:昔は映画人がポケミスを読んでいたりとか、例えば、日本テレビは探偵物語とか、いろいろ探偵モノがあったでしょ、日本テレビ内にハードボイルドを読む会っていう勉強会があったんですね。
有栖川:いま映画人、漫画ばっか読んでる。
北村:マクベインの『殺意の楔』なんて、どうやったって面白くならないはずはないと思うんだけれど。私、高校生のころテレビみてたら『殺意の楔』を二十何分かでやっていて、めちゃめちゃ面白いんですよ。
芦辺:その翻訳でいうとね、土曜ワイド『混浴露天風呂連続殺人』っていうシリーズ、ご存じないですかね。古谷一行の。
有栖川:あれシリーズなの?
芦辺:もう何十作も作られている。あれ実は、もともと翻訳本なんですよ。あれはカーター・ブラウンのアル・ウィーラー警部シリーズだったんです。『ピンクハンター』ってタイトルで2作作られたんですが、プロデューサーに聞いたところでは、日本の当時の脚本家は、翻訳ミステリーみたいな洒落たセリフとか、展開ができないんですって。それで、結局第3〜4作あたりから、混浴露天風呂連続殺人事件になってしまったと。
有栖川:全然つながらへん。
芦辺:本格(ミステリ)を読んだディレクターやプロデューサーが育ってくると、ドラマ化されたり、映像との世界とも結ばれていくんじゃないでしょうかね。読んだのはコナンでしたというのが多いと思うんだけども。

私は10人見たら3人分かるくらいが一番良い犯人当てだと思っているんです。家族で話し合ってくれるくらいが良い。(有栖川さん)
有栖川:(小説は)どっちかっていうと、あんまり映画的にならないようにしないと。第何章、第何節が終わって、次の節が始まって、画面変わってとか、映画的になったりするときに、これではいかんと思う時がある。
芦辺:そうなの。
有栖川:映画でそれをやるときって意外といろいろ工夫があっていいけどね、小説だと楽すぎる
芦辺:それはあえてやらないってこと?
有栖川:やってますけど、楽してるという気になる。
北村:だから、それを逆に今度、映像でなければ、っていうことをあれでやっている訳ね。安楽椅子(探偵)で
芦辺:でも、昔だったら、例えば犯人当て番組でも、見返すことはなかったのに、「安楽椅子探偵」シリーズだとみんなすり切れるほどビデオ見てくるじゃないですか。
有栖川:初期はビデオ、今はDVDとかね、HDに入れてるとかね、昔はビデオ巻き戻して見るのが大変だった。それから解放されて、視聴者的は喜んでいる、こっちとしては、まずいなぁと思っている(笑)。
芦辺:例えば見過ごして欲しい大事な手がかりは直前に見せるとか、やればよかったんですが、今はもう見返されてしまうから、完全にばれてしまう。
北村:どんどん難易度高くなっていくじゃない。どうなっちゃうんだろう。
有栖川:本当はそこまで高くしたくないんですけれどね。私は10人見たら3人分かるくらいが一番良い犯人当てだと思ってるんですよ。テレビだから家族で話し合ってくれるくらいが良いなと思ってたんです。
芦辺:昔、僕ある作品の真相当てみたいなサイトにいったら、ものすごいギスギスした雰囲気なんですよ。
有栖川:ネットとか絡むんで100人で論議するとかなると、絶対当たるじゃないですか。当たらなかったら、逆にちょっと問題あるしね。
芦辺:もっと余裕をもってやってほしいっていうのは、ありますね。
北村:難易度はやっぱり優しい方がいいんじゃないの。
有栖川:ネットの時代になったから、難易度あげろって言われているみたいで。けんか腰の人がいるから、けんか腰になりたくないんだけど、
芦辺:『安楽椅子探偵』の次の企画の方は、なんかちょっとチラホラ聞こえてはいるんですが。
有栖川:企画がちらほら聞こえてる、それは幻聴です(笑)。みんなやる気はある。ほんまにあるのかなぁ。やる気はあるんですけど、夜中に好きなことしましょうっていうことでやっているんで、みんなの都合が合わないと、できないんです。機運が盛り上がったらっていう。決着はつけたいんでね。次回が最終回っていう意味ではないですけども、まだ続けたいとは思っています。

文:白玉  撮影:荒木理臣 編集協力:魚子
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