「メキシコ映画『グッド・ハーブ』に観る文化とハーブと女性たち」—『グッド・ハーブ』公開トークイベントを独占レポート!

  • 2011年08月01日更新

メキシコシティを舞台に、アルツハイマー型認知症と診断された母とシングルマザーの娘の絆を描くヒューマン・ドラマ『グッド・ハーブ』。その公開を記念して「メキシコ映画『グッド・ハーブ』に観る文化とハーブと女性たち」と題されたトークイベントが、2011年7月24日(日)にシネマート新宿にて開催されました。

ゲストとして登場したのは、女優の東ちづるさん(写真中央)と東京大学大学院人文社会系研究科・文学部の野谷文昭教授(写真右)。そして司会進行役には『グッド・ハーブ』を配給したAction Inc.の代表、比嘉世津子さん(写真左)。映画の中に垣間見えるメキシコの文化を紐解きながら、日本との違いや映画の見どころについて、中身のぎゅぅっと詰まった濃いお話をたくさん聞くことができました。

— 比嘉世津子さん(以下、比嘉) お一人ずつ映画の感想をお願いします。

観終わった後にじわじわと考える映画。(東さん)

東ちづるさん(以下、東) 最初は、美しい映像だなと思って観ていました。(台詞などで)詳しい説明が出てこないので、人間関係などは少しずつわかって来る感じで。途中までは母親と娘の両方の気持ちで観ていたけれど、だんだん娘側の気持ちになって行きました。観終わった後に「私ならどうするかな」とか「女友達でこのテーマについて話し合ってみたいな」と、じわじわと考えて行く映画だなと思います。

印象的だったのはメキシコの濃密な空気。(野谷教授)

野谷文昭教授(以下、野谷) 僕にとって印象的だったのは、空気かな。すごく濃密なんですね。
家も自然も色彩も、人間の関係性も非常に濃い。重いって言うのとは違うけど、なにかズッシリくるものがある。それが一番印象的だった。今の日本でなかなか見出せないような人間関係が、日常として存在しているということでしょうね。

— 比嘉 メキシコの色彩や建築、自然との共存などについてはいかがですか?

独特の色彩感覚が見どころ。家の中と外の区別がつかないくらい植物で繋がっている。(野谷教授)

野谷 インテリアにルイス・バラガンという建築家が大胆に取り入れて有名になったメキシカンピンクと呼ばれる独特のピンクが使われているなど、色彩感覚も凄く見どころだと思います。それらは自然や植物などに由来した色で、映画をみていると、この色はここにあったんだと発見できると思います。美しいハカランダ(※桜に似た紫色の花)がわっと出て来る場面があって、あそこはもう涙が出ますね。(主人公ダリアの母の)ララは植物学者という設定なのもあるけど、家の中と外の区別がつかないくらい植物で繋がっている。実は撮影に使われたのはマリア・ノバロ監督の家なんですよね。日本だと植物はインテリアと見なして、生きているっていう感じがあまり無いけど、メキシコに行くと植物それぞれが自己主張している。

 設定としてはあまり裕福じゃないと思うのですが、センスがいいですよね。お家の中にしても、着ているものにしても。それは生き方にしてもそう。

メキシコの人はお喋り好き。(野谷教授)
日本では考えられないくらい、世代を越えて仲がいい。(東さん)

 日本ではちょっと考えられないくらい女性達も世代を越えて仲が良いでしょ。支え合うっていうか助け合うっていうか。皆、吐露しちゃう。

野谷 メキシコ人って階層問わず、とにかく話し好きですね。ちょっと集まっちゃ喋る。上流階級は友人達を集めてしょっちゅうパーティーをやって、そこでぺちゃくちゃ話して、かなりプライベートなことも全部さらけ出すんですね。

 そう。でも、ぺちゃくちゃ何でも話しているように見えているけれども、実は秘密があるっていう……そのバランスが凄く面白いと思った。

— 比嘉 ハーブの話を。メキシコでいうハーブというのは先住民からの薬草のことで、薬草市場とか(メキシコシティの)ソノラ市場で売っているものを自分なりに調合して使うけど、日本では薬草とハーブっていうのは違うイメージがあるみたいね。

 (日本では)薬草っていうのは苦いのを我慢して身体に効くクスリ。ハーブっていうのは、お茶とか、お料理に使うものって言う風に、多分区別して考えられていると思います。

比嘉 昔、うちの父親がセンブリを煎じて飲んでいたな。でも、なんとなく皆が感じるハーブっていうのは……お洒落な感じ?

 たぶん、そうだと思います。ところで映画に出て来るハーブの本。とってもキレイですよね。今日はそれをイメージして衣装を着てきました。

比嘉 写本でまだ実際に売られているんですよ。メキシコから買ってきました。

薬草が産業に組み込まれてしまうことで、誰もが使えたものが使えなくなった。これは大きな問題。(野谷教授)

比嘉 この映画をみて「ハーブって効かないよね」って言われた方がいたんですけど、日本だと効くとか効かないとかの方にいっている感じ。漢方薬もそうですけど、昔は皆もっとゆっくりと飲んでいましたよね。

野谷 ようするに、今は西洋的なクスリがあまりにも入って来てしまって、何に効くとかがピンポイントですよね。ハーブの場合は効能がいくつかにまたがっているんです。これだけっていうんじゃなくて、グレーゾーンが非常に大きい。そのために今は逆に流行らなくなっているというのはあるかもしれないですね。今は二分法でしか人は考えないから。

 黒か白かになってしまったんですよね。ハーブはグレーで「これって何で効くんだろう」って聞かれると「何でかは分からないけど効いている」っていう……。

比嘉 映画も同じで、ゆったりしている。日本も昔はそうだったと思うんです。ラテンアメリカの映画を配給したいという理由の一つは「だって日本も昔はそうだったのに」っていう、ちょっと懐かしさみたいなところを感じるからです。

野谷 アマゾンのジャングルにはたくさんまだ薬草と名前もないような植物があるわけですね。それをアメリカの薬品会社が片っ端からとって来て分析してクスリを作り、特許を取ってしまう。完全に産業に組み込まれてしまうわけです。昔だったら先住民が知恵で必要な時にだけとって使っていたというものを製品にしてしまったっていうことは大きな問題だと思うんです。しかも、特許を取ってしまうから(値段が)高くなる。先住民だったら誰もが使えたものが使えなくなり、買わなきゃならなくなった。おかしな構造になってしまった……。

— 比嘉 死者と生きている人達が共存しているというメキシコの死生観がところどころ出て来ます。それも日本に昔あったもののような気がしますが。

日本ではまだまだ死についてはタブー。(東さん)
制度そのものを考え直す時期に来ているのかもしれない。(野谷教授)

 そうだと思います。だんだんと日本でも自分の人生の幕をどう降ろすかというのを家族で話し合うという風になって来ていると思うけど、でもやっぱりタブーですよね。これは捉え方だろうけども、ダリアが右往左往する姿を見て、お母さんが死に向かって行く事に対して恐怖でおののいているわけじゃなく、二人の関係性を見詰め直して、どう向き合うかっていうことにずっと苦悩しているでしょ。私は父が亡くなった後に、この人はどういう人生を歩んで来たんだろうと考えた時、全然話し合ってないことを知ったんです。じゃあ、今生きている母とはちゃんと見詰め合って関係性を修復出来るところはして、どういう風に老後を生きて行きたいとか、どういう風に看取って欲しいとかを話し合いました。でも、最初は「どう死にたい?」って聞いたら「縁起でもない!」ってえらい怒られて。(笑)

比嘉 皆「縁起でもない」って言いますよね。

野谷 あとは、病院(に入る)って問題ね。在宅ケアとかも色々とありますけど、結局家にいることによって、自分の歴史が繋がって行く。病院に入れられてしまうと、そこで切れてしまって別の生活になってしまう。これって凄く大きな事であるし、それこそ自分のアイデンティティーそのものがそこで変わってしまうような気がします。「家で死にたい」って言う人はそれを感じているのだろうと思います。確かに、病院に入れば便利になるかもしれないけど、今言った様な歴史観や家と共にあった様々なものが切れてしまう。映画でも植物達はララにとっては家族みたいなものじゃないですか。それから切り離されてしまうことの怖さというのを、娘のダリアは気づいたんじゃないでしょうか。

 今は人生の始まりと最後が病院。この間友人がたまたま自宅で亡くなったんです。本人が「私は大丈夫だから医者を呼ばないで」って言って、そこで亡くなってしまったけれど、遺族は病院に連れて行かなくて良かったって言ったんです。手足をさすりながら息を引き取って良かったって。でも、その後が変死扱いなのよ、って。お医者さんを呼んでいないと変死扱いになる。だから、やっぱり大変。

野谷 そうですね。制度そのものを考え直す時期に来ているのかも知れない。合理的なものとそれだけで済まないものとあるわけだから。

— 比嘉 最後に一言ずつお願いします。

大きなスクリーンのあらゆるところに美しいものが散りばめられている。(東さん)

 大きなスクリーンのあらゆるところに美しいものが散りばめられています。音楽も素敵だし。ダリアの息子のコスモくんを取り巻く女性達、若い人からおばあちゃんまでが支え合って本当に温かいんですよ。こういう社会だとシングルマザーになるのも怖くはないのかも知れないなって。母になっても自分の人生を生きているダリアの姿もあって、特に女性の皆さんは見所が満載です。そして、これを理解できる男性の方が増えると日本はいいなあと思います。

野谷 マリア・サビーナっていうシャーマンが現れますよね。もう亡くなっている人ですが、植物学者だったララには多分見えているんですね。目が開くとか開かないとかじゃなく、それがもう彼女の中にいるということ。それをマリア・ノバロ監督が一生懸命表現しようとしたのだろうと思います。

開催の5日前に急遽決まったイベントにも関わらず、女性を中心に多くの方が集まり熱心に耳を傾けていました。真面目なテーマも多いなか、長年の友人でもある東さんと比嘉さんの息の合った掛け合いに、ところどころ笑いのこぼれる和やかなイベントになりました。

▼『グッド・ハーブ』作品・上映情報
2010年/メキシコ/120分
原題:”Las buenas hierbas”
監督・脚本・製作:マリア・ノバロ
撮影:ヘラルド・バロッソ
音楽:サンティアゴ・チャベス フディス・デ・レオン
出演:オフェリア・メディーナ アナ・オフェリア・ムルギア ウルスラ・プルネダ ほか
配給・宣伝:Action Inc.
『グッド・ハーブ』公式サイト
※2011年7月23日よりシネマート新宿他全国順次公開中

取材・編集・文:min スチール撮影:荒木理臣

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●『グッド・ハーブ』作品紹介


  • 2011年08月01日更新

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