『黄色い星の子供たち』─絶望の中に見る愛と勇気。50年間隠されていた事件の真実とは。

  • 2011年07月23日更新

1942年ナチス支配下のフランス。ユダヤ人は衣服の胸に“黄色い星”をつけることを義務付けられていた。公園や遊園地、レストランなどあらゆる公共施設への立ち入りを禁じられ、夜8時以降の外出も厳しく注意されるまでに。11歳のジョーは、そんな中でも家族や友達のシモンたちと仲良く誇りを持って暮らしていた。静かながら街中には不穏な空気が流れ、ユダヤ人検挙の噂も流れていたが、連れて行かれるのは兵器工場に必要な男だけと誰もが信じていた。なぜなら、当時のフランスはユダヤ人に“救いの国”と言われ、他国から移ってきた人も多かったから。

― フランスが罪のない命をナチスドイツに差し出した理由

そんな思いを踏みにじるかのように、7月16日午前4時、一斉検挙が始まった。ヒトラーからユダヤ人を引き渡すよう求められたフランスは、増えすぎたユダヤ人移民を撤廃するのに都合がよいと考えたのだ。フランス警察も自分たちの要望と引き換えに全面協力する。ドイツ側は子供の除外を提案したが、フランスのラヴァル首相は残された子供の面倒を見きれないという理由で除外案に反対。「親と子を引き離すのは非人道的」という上っ面の理由を掲げ、子供も赤ん坊も一人残らず逮捕。1万3000人のユダヤ人がヴェル・デイヴ(冬季競輪場)に収容された。ここで5日間、水も食糧もないまま放置されたが、これは悲劇の序章でしかなかった ─ 。

― 非人道的な検挙劇の裏側にあったフランス国民の良心

しかし、フランス全体がユダヤ人迫害に加担していたわけではない。警察からユダヤ人リストが受け渡されたことを外部に連絡する人、間もなく検挙が始まると教える警官、憲兵がきたら合図を送る管理人、機転を利かせてユダヤ人を匿う多くのフランス国民たち、ヴェル・デイヴで指令に背いて水を配った消防署員など。彼らの言動によって悲劇の中に小さな灯を見た。そして、なんといっても身体を張って子供たちを守る看護師のアネットの献身的な姿は、感動や尊敬という言葉だけでは表現できない。アネットという英雄によって心身ともに救われた子供たちがどれだけいたか計り知れない。

― <真実>だけを描くために不可欠だった生存者との奇跡的な出会い

この映画を作るにあたり、元ジャーナリストのボッシュ監督は、緻密な調査を行い、記録文書や映像に片っ端から目を通し、生存している目撃者の証言を集めたという。最初に会えたのは、アネット。このような素晴らしい看護師がいたことがまったく作り話ではないのが驚きであり感激である。さらに、監督は15年前に作られたドキュメンタリーを見続けること11回目、収容所に行ったことを語る男性、ジョゼフ・ヴァイスマンを見つけた。この奇跡の出会いによって当時の詳細な情報を得ることができ、隠された事実を忠実に世界に伝えることができたのである。

― フランスの豪華俳優が脇を固めるキャスティング

アネットを演じるのは、自身の祖父もナチスから迫害を受けたというメラニー・ロラン。優しさ、怒り、正義、そして悲しみを芯のある演技で魅せてくれる。そして、唯一の医師として収容された人を診察するシェインバウム医師を演じるのはフランスの名優ジャン・レノ。本人も普段はオファーされない役柄であることを語りつつも、出演できることが光栄で即決したという。スター俳優としてではなく、脇を固める静かで骨太な演技で安心感を与える。そして、この素晴らしい二人に勝るとも劣らない子役たちの演技と表情に注目だ。心を奪われ涙が止まらなくなる。

― 知るべき歴史と目を背けない勇気

50年もの間、公式に認められなかったこの事件。ナチスドイツによるユダヤ人迫害を描いた映画は数多くあるが、フランス政府のホロコーストは他の国のそれと比べてあまり題材にされていない。1995年にシラク元大統領がフランス政府の責任と認めるまで、事件はナチスドイツのよる迫害と捉えられていたせいかもしれない。ユダヤ人迫害については、『シンドラーのリスト』、『ライフ・イズ・ビューティフル』、『戦場のピアニスト』など名作も多い。しかし、まだまだ私たちの知らない真実はたくさんある。それを知る第一歩になることは間違いない。

最後に。この映画は、できれば終盤に関しての前情報を入れずに観ていただきたい。ネタばれとかそういった次元のことではなく、自分の目で観てストレートに感じることで、この作品への印象が変わる気がするから。一画面一画面ごと、あらゆる出演者の表情が印象に残る。私は2回観させていただいたが、予備知識なしで観た1回目の感情は言葉にできない。そして、辛くとも繰り返し観たくなるのは、幸せに暮らしていた頃の子供たちの無垢でかわいい笑顔を何度も見て焼きつけたかったからかもしれない。

▼『黄色い星の子供たち』作品・公開情報
フランス・ドイツ・ハンガリー合作/2010年/125分
原題:”La Rafle”
監督・脚本:ローズ・ボッシュ
製作:イラン・ゴールドマン
出演:メラニー・ロラン ジャン・レノ シルヴィー・テスチュー
配給:アルバトロス・フィルム
『黄色い星の子供たち』公式サイト
※7月23日(土)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー!

文:那須ちづこ


  • 2011年07月23日更新

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