『グッド・ハーブ』—切なくも不思議な温もりに満ちた作品

  • 2011年07月21日更新

母が教えてくれたのは、心に効く「グッド・ハーブ」だった…。
自立した母と漂うように生きる娘。大都市メキシコシティを舞台に、対照的な人生を歩む母娘の絆を描く。監督は、女性を主人公に作品を撮り続けてきたマリア・ノバロ。本作では、認知症という病気によって、自分の知らなかった母の人生を垣間みる娘と、母娘を支える周囲の人々の姿を限りなく優しいまなざしで見つめている。重いテーマを扱いながらも、その映像の美しさや優しい音楽、おしゃれなインテリアなど、女性の心にささる要素もいっぱいの作品だ。


シングルマザーのダリア(ウルスラ・プルネダ)は小さなコミュニティラジオのパーソナリティ。 幼い息子コスモの養育費は、母のララ(オフェリア・メディーナ)には内緒で、すでに母と離婚している父から援助してもらっている。一方、ララはメキシコでも有数のアステカ時代のハーブ研究者(民族植物学者)。独立心が旺盛で、別れた夫とも娘とも、適度な距離を保ち、植物の研究を続けている。そんなある日、ララがアルツハイマー型認知症と診断される。自分が壊れて行く恐怖を落ち着かせるために、自ら研究したハーブを試すララ。それを手伝いながら初めて母との人生を振り返るダリア。だが、2人に残された時間は、わずかだった…。


—薬草に込められた、先住民族と女性たちへのオマージュ
この映画に登場するハーブとは薬草のこと。スペイン征服以前から先住民族によって治療などに用いられ、現代のメキシコでも薬草文化はハーブティーを飲む習慣などとして日常的に人々の生活に根付いている。それは命の営みと同様に、人々の間に脈々と受け継がれて来たものだ。マリア・ノバロ監督は薬草に先住民への敬意を込めながら、母娘の物語を通してメキシコに生きる女性たちの姿をいきいきと映し出している。


—しなやかに生きるメキシコの女性たち
ララとダリア、そして近所に住む老女ブランキータはマチズモ(男性優位)の社会において、自らシングルを選んだ女性たちだ。互いを尊重し支え合いながら、人生を楽しみ自分らしく生きようとする。中絶が認められていないためシングルマザーが多いメキシコでは、子供を育てるのも家族や近所の人々と協力しあって皆で育てるという感覚が強いという。それは介護でも同じで、次第に症状が悪化して行くララを見守る周囲の人々がとても温かい。しかし、母の人生を知るほどに、ダリアの中で大きくなって行くのは、最後まで凛とした女性でありたいというララの願いだ。ダリアの選択を目にしたとき、娘として、そして同じ女性として、自分ならどうするだろう? と考えずにはいられない…。


—人は誰もが死と寄り添いながら生きている
死に向かって行くララのほかに、この物語にはもう一つの死が登場する。ブランキータの孫娘だ。15歳の祝いの日に何者かに殺められた娘は、その日に着ていたピンクのドレスを着て物語の節々に現れ、時にはブランキータのそばにそっとたたずむーー。愛する人の死。そして自分の死。それは誰にでも訪れるものでありながら、普段はひっそりとその身を潜めている。けれど、本当はいつも身近にあって、死者と生者を見えない絆で繋ぎながら、人生にそっと寄り添っているのだろう。

切ないけれど、なぜか不思議とあたたかな余韻を残すこの作品。その余韻を感じに映画館に足を運んでもらいたい。


▼『グッド・ハーブ』作品・上映情報
2010年 / メキシコ / 120分
原題:Las buenas hierbas
監督・脚本・製作:マリア・ノバロ
撮影:ヘラルド・バロッソ
音楽:サンティアゴ・チャベス、フディス・デ・レオン
出演:オフェリア・メディーナ、アナ・オフェリア・ムルギア、ウルスラ・プルネダほか
配給・宣伝:Action Inc.
※7月23日(土)より、シネマート新宿にてロードショー
●  『グッド・ハーブ』公式サイト 

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文:min

  • 2011年07月21日更新

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