『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』― 奇才バンクシーが描くアート界のどんでん返し

  • 2011年07月16日更新

 世界で最も有名、だがその素顔は誰も知らない英国のストリート・アーティスト、バンクシーの初監督作品。ストリート・アートに魅せられ夢中になる古着店店主ティエリー・グレッタの姿を通じ、バンクシー特有の皮肉とユーモアを織り交ぜ、“アートの価値”を問うドキュメンタリー。謎に包まれたバンクシー本人のインタビューを始め生のグラフィティアートの現場を体感できる。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート作品。7 月16 日(土)より、シネマライズほか全国順次公開。 c. 2010 Paranoid Pictures Film Company All Rights Reserved.

世界で最も有名。だがその素顔は誰も知らない、謎のストリート・アーティストBANKSY(バンクシー)初監督作品。
世界で最も有名。だがその素顔は誰も知らない、謎のストリート・アーティストBANKSY(バンクシー)。主にステンシルを使ったアートを町の所々の壁にゲリラ的に残してゆく彼は、イギリスを拠点とするものの、その活動範囲は幅広く、神出鬼没。アートとしての完成度の高さだけではなく、風刺の効いた社会批判的コンセプトや、大英博物館に無許可に作品を展示したり、イラクのガザの壁に穴を開けた絵を描くなど、その異端児ぶりがメディアを騒がすことも多く、「芸術テロリスト」と呼ぶ人もいるほどである。しかし、大英博物館はその後彼の作品を正式にコレクションに登録、サザビーズのオークションでは作品が55万ドルで落札されるなど、絶大なる人気を誇っている。本作『イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ』は、そんな謎めいたアーティスト、バンクシーの初監督作品。ひょんなことからバンクシーと知り合ったビデオカメラ中毒の男、ティエリー・グレッタのストーリーと、バンクシーの視座が交錯するリアルなドキュメンタリーである。

バンクシーと出会って人生が変わった男、ティエリー・グレッタ
本作は、まずティエリー・グレッタという人物像を明らかにするところから始まる。常にカメラを持ち歩きながら、いつしかストリート・アーティストを撮影し続けるようになった男、ティエリー・グレッタは、唯一彼の映像に足りなかった人物、バンクシーと偶然の出会いを果たす。バンクシーは彼にストリート・アートのドキュメンタリーを作るよう鼓舞するが、出来上がった作品を見て彼に映像の才能が無い事を知ってカメラを奪い取り、今度は「作品を作ってみたらどうだ」と持ちかける。ティエリーはバンクシーの言葉でどんどんエスカレートしてゆき、自ら「Mr.BrainWash」と名乗り、ロサンゼルスで大規模な展示会を計画。バンクシー自身も予想しない展開を生むのだった。

バンクシーならではの皮肉とユーモアたっぷり、ユニークな手法のドキュメンタリー
観賞後、私は一瞬バンクシーの作り話かと疑った。それほどこのティエリーという変わり者のストーリーは極端で、吹き出してしまうような可笑しさに満ちている。本作を、バンクシーの暴露本や独白のようなものと想像する人は、少々肩すかしを食らうかもしれない。なにせ、話の主体はティエリーにあるのだから。しかし、このストーリーを媒介として、バンクシーの考えやメッセージはとてもシンプルに伝わる形となっている。最初はティエリーの視点から、様々なストリート・アーティスト、そしてバンクシーの生態が明らかにされるのかと思いきや、気がつけば主客転倒、徐々にバンクシーの視点から、ティエリーという男を通して「アート」と「大衆」の関係性が、痛烈な皮肉とユーモアを含めて浮き彫りにされていく。そのやり口は、まさに彼のゲリラ的活動と同じく鮮やかで、バンクシーの「してやったり」感満載。最高にユニークで痛快だ。彼の作品で「やられた!」と思わされる感覚が好きなバンクシーファンは、きっとこのドキュメンタリーを笑って観られるに違いない。

その他、もちろん、本作には、今まであまり公表されることのなかったバンクシーの作品制作風景や、スペース・インベーダーやシェパード・フェリーなど有名なストリート・アーティストも登場し、バンクシーファン、グラフィティファンにとっては嬉しい内容となっている。特に、世間の耳目を集めたバンクシーの事件やイベントについて語るバンクシーのインタビューなどは、アートを今までとは別の視点で覗くことができ、非常に面白い。もしかしてこれからは、アートのみならず、街中の壁や落書きが今までと違って見えるかも知れない。スプレー缶を持って夜の街に飛び出さないよう、要注意である。

 

▼『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』作品・公開情報
2010年/アメリカ+イギリス/90分/英語
監督:バンクシー
出演:ティエリー・グエッタ/スペース・インベーダー/シェパード・フェアリー/バンクシー ほか
ナレーション:リス・エヴァンス
音楽:ジェフ・バーロウ(Portishead)/ロニ・サイズ

提供:パルコ  
配給:パルコ/アップリンク 
特別協賛:SOPH.co.,ltd
c. 2010 Paranoid Pictures Film Company All Rights Reserved.

●『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』公式サイト

文:しのぶ

  • 2011年07月16日更新

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