『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』インタビュー− したたかに生き残るためのアイスランド流笑いの形。

  • 2011年07月06日更新

アイスランドのレイキャヴィクで鯨見学ツアーの乗客が巻き込まれた惨劇を描く『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』。タフな日本人秘書役を演じた裕木奈江さん、ジュリアス・ケンプ監督、プロデューサーのイングヴァール・ソルダソンさんに本作品に対する思いをうかがってきました。ホラー映画でありながら風刺の効いたアイスランド流のブラックユーモアが流れる『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』。誰かを笑い物にするのではなく自分自身も含めて「全ての人を平等におちょくる」ユーモアは小国でありながら大きなヨーロッパという枠組みの中でしたたかに生きようとする人々たちが生んだ笑いの形。ホラー映画に潜むユーモアという極上の隠し味を堪能して欲しい。


裕木奈江さん、ジュリアス・ケンプ監督、プロデューサー イングヴァール・ソルダソン氏インタビュー

裕木さんの役はアイスランドっぽい女性として描いています(ケンプ監督)
 ― この作品には2つのタイプの日本人が描かれています。一つは典型的な(外国人からみた)日本人、もう一つは裕木さん演じるタイプ、この二つは両方とも監督が抱いている日本人のイメージですか?
ジュリアス・ケンプ監督(以下ケンプ):お金持ちの夫婦は、アイスランドやロンドンで見る観光客のイメージ。対して、裕木さんの役は日本人である以上にサバイバーとして描いています。あらゆる状況をうまく利用して生き残ろうとする存在ですから、むしろアイスランド的な女性として描かれていますね。

―演じられて、裕木さんはご自身の役(エンドウ)がアイスランド的だと感じましたか?
裕木奈江(以下裕木):アイスランドは、バイキングの時代に女性が活躍をしたり、80年に世界初の女性大統領が選出された国なんですね。日本からするとすごい事ですが、でもアイスランドの人達はごく当たり前のようです。「すごいですね、日本では80年代の後半にやっと雇用機会均等法ができたんですよ」と言うと、「男でも女でも、上手にできる人がやればいいんじゃないの?」と。カッコいいですね。アイスランド的かどうかは判りませんが、エンドウは、典型的な日本女性のイメージとしては強すぎるし、特殊過ぎ。そがこ面白いところです。


この脚本は悲劇とユーモアの二面性を持ち合わせている(ケンプ監督)
−ホラー映画でありながらアイスランド流ブラックユーモアの効いている作品です。この作品を通してアイスランドをどのように描きたいと考えていましたか
ケンプ:ごく普通に一般的に起こりうるという状況を撮ろうと。外国の俳優さん達にも演じていただいていますが、港にいそうな一般人という感じを出してみたかったのです。脚本がクレイジーですので、そこに出てくれる人たちは普通でいて欲しかった。

−普通の人が持っている怒りを監督はユーモアで表現していますよね。
ケンプ:この脚本のいいところはクレイジーなユーモアにあふれているという所でしょうか。悲劇とともにユーモアも持ち合わせている。二面性があるんです。

裕木:日本の人はあんまりブラックジョークを言わないので、人種を取り上げたブラックユーモアにドキドキしてしまいます。今はネットも普及しているし、こういうジョークにも慣れてはきているけど、以前だったら、私のボス役の発言はありえないですよね。アイスランド的ブラックユーモアたっぷりの脚本ですね。

ケンプ:色々なブラックユーモアがあるけれど、この映画は「全員をおちょっくっている」からいいんですよ。日本人だけではなく、アイスランド人だってユーモアの対象になっている。アイスランド人だけが賢く見えるなんていう描き方もしていないしね。

裕木:国民性の違いですが、これを笑いにするヨーロッパというのはすごい。アメリカもそうだけれどユーモアセンスが(日本とは)全く違うんです。アイスランドの人達はアイスランド語の他に、英語も喋れて、たいていもう一ヶ国語、デンマーク語やドイツ語なんかが喋れる。(国際的だから)どこかで優越感を感じるし、どこかで劣等感を感じていて、自虐もいう。ギリシャ人もそうですけれど経済状況が悪くて、「うち誰も働かないからこうなっちゃうんだよね、ま、俺も働いてないからね」とか言えちゃうんですよ。日本だと言葉に気をつけなければとなりますけれど。

イングヴァール・ソルダソンプロデューサー(以下ソルダソン):誰にも情けはかけない。全ての人を過酷に描きます。使えるものはなんでも使いますよ(笑)


アイスランドの才能が集結して、ブラックユーモアで結ばれています。(裕木奈江)
−脚本家の方は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の作詞をされた方と伺っていますが
ソルダソン:脚本のシオン・シガードソンは小説家であり、作詞家として『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でアカデミー賞歌曲賞にノミネートされています。また、音楽を担当しているのは神官としても活動をしているヒルマー・ウーン・ヒルマソンです。

ケンプ:出演者のガンナー・ハンセンはレザーフェイス役で『悪魔のいけにえ』に出演した俳優。この作品はホラー映画の作品を辿る旅のようなもの。『悪魔のいけにえ』と『死霊のはらわた』からの要素もちょっとずつ足して、舞台を捕鯨の港に持ってきました。

裕木:アイスランドの才能が集結して、ブラックユーモアで結ばれていますね。


氷土でガールズトーク。小さな話題を大自然の中で話していました。(裕木奈江)
−裕木さんはアイスランドで旅行されたということですが、お勧めのスポットなどありましたか
裕木:車を借りて、島の南側の氷河を観に行ったんです。たまたま知り合ったバックパッカーの女性と永久氷土の場所まで一時間位歩きました。歩いている間、バックパッカーの子が「そろそろ結婚したいんだけど、どうしよう」みたいなガールズトークになって。小さな話題を大自然の中で話していましたね。

ケンプ:そういう所にはトイレがないから、藪の中に行くしかないでしょう。

裕木:うん、確かになかった。車だったので大丈夫でしたけれど。その後に4階建て位の建物の高さの氷山を観に行って。一度は行っていただきたいですね。島の南側。


次回はアマゾンで大虐殺(ケンプ監督)
−次回作を作られるとしたらどんな作品になるのでしょう?
ケンプ:アマゾンマサカー(アマゾン大虐殺)というアイデアがあります。裕木さんのキャラクターは変わらないんだけれども、他の部分はこれから考えていこうと思っています。

裕木:でもメガネはかけます(笑)


恒例の靴チェック
左からジュリアス・ケンプ監督、裕木奈江さん、イングヴァール・ソルダソンさん。三人仲良く足を揃えてもらいました。靴の撮影が珍しかったのかお三方とも撮影を楽しんでいたよう。










裕木奈江
1970 年生まれ、横浜出身。80 年代末に映画女優としてデビュー、90 年代にはアイドル的な人気を博し、歌手活動、CM、ラジオのパーソナリティなど多方面で活躍。主な出演TVドラマは『北の国から ‘92 年旅立ち』(92)、『ポケベルが鳴らなくて』(93)。映画作品に『学校』(93/山田洋次監督)、『光の雨』(01/高橋伴明監督)、『硫黄島からの手紙』(06/クリント・イーストウッド監督)、『インランド・エンパイア』(06/デヴィッド・リンチ監督)など。

イングヴァール・ソルダソン氏(プロデューサー)
ヨーロッパ映画アカデミー会員。俳優としての顔も持つ、アイスランドで有名な映画プロデューサーである。有名になったきっかけは、昔話だが、学生時代にお金のかかる彼女と付き合っていた当時、銀行強盗を実行したものの大したお金を得られず、終いには警察にバレるはめに。その経緯を本にしたところ、銀行強盗で得た金より稼げてしまったというエピソードを持っているため。プロデュース作品として、『Eleven Men Out』(2005)、『Dorks & Damsels』(2007)などがある。最新プロデュース作品は、ラトビア共和国で製作された『Mona』(2011)。



ジュリアス・ケンプ監督
1967 年生まれ、レイキャヴィク出身。イギリス美術工芸専門学校で映画製作を学ぶ。『Blossi/810551』(1997)が米アカデミー外国語映画賞のアイスランド代表に選ばれ、『The Happy End』(1998)がトロント国際短編映画祭のコンペティション部門に出品。プロデュース作品『The Icelandic Dream』(2000)で、アイスランドのオスカーともいえるエッダ・アワードにおいて最優秀映画賞を含む4冠に輝いた。更にヨーテボリ映画祭(スウェーデン)の最優秀北欧映画部門に出品。エディンバラ国際映画祭、トロント国際映画祭、釜山国際映画祭でも入選を果たすなど、監督としてだけではなくプロデューサーとしての評価
も高い。

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取材・編集・文:白玉 スチール撮影:鈴木友里

  • 2011年07月06日更新

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