『ふゆの獣』インタビュー-生々しい恋愛を演じる事。役に憑依する驚くべき制作過程。

  • 2011年07月02日更新

それぞれに恋愛感情を抱きあう男女4人の関係をえぐり出す『ふゆの獣』。相手を思う感情を隠しながら、静かな恋愛のかけひきをしている男女4人が、少しずつ変化し、ついに愛する人の心のうちを見出し激しく感情をぶつけ合う。この映画を一言で表現するとすれば「見苦しいまでの恋愛の生々しさ」。プロットを元に即興で演じられた本作は俳優の発するセリフ、アクションの中にリアルな恋愛の息遣いを感じ、現実の恋愛をのぞき見をしているような錯覚に陥るような恋愛ドキュメンタリーに近い作品。 今回は役に入り込むのでなく、役に憑依する驚くべき制作過程を内田伸輝監督と4人の俳優の方々に伺います。


盲目的な恋に悩んでいる女性というのは非常に多い。飲みに行った時の会話がスタートでした(内田監督)
― 最初にこの作品を作った経緯とプロット制作のポイントを監督から伺えますか
内田伸輝監督(以下内田):この『ふゆの獣』を考えたのは、飲みに行った時に女性の友人の話。恋人のことが好きで盲目になっていたんですが、端から聞いていると明らかに別れた方が良い状況でした。最近は、女性の方も独立していても恋愛には盲目的になったりしてしまう人が多いのかなという疑問がありまして、調べてみると意外に盲目的な恋に悩んでいる女性の方っていうのが非常に多かった。これは意外性があって面白い。そこから、恋愛映画で何かやろうと思い、脚本を書き、オーディションをして、キャストを決め、後半部分は、脚本から、前半部分は即興をやっていくなかで生まれていきました。


二人の思い出が一つもなかったので、些細なことを100問くらい。強引にメールで聞きました。(加藤さん
― 四人の出演者の関係性がとてもリアルに描かれていますが、どのように人間関係を作り上げていったのでしょうか?
内田:役者さん達でメールのやりとりみたいなのはしていたみたいですね。そのメール(の内容は)は全然知らないです。

加藤めぐみ(以下加藤):2回目のテスト撮影は、ノボル君と二人でした。役に入った上で、お互いの恋愛事情についてインタビューしあうというもの。その時点では、設定とは裏腹に、まだシゲヒサとの二人の思い出が一つもなかったので、インタビューに向けて、シゲヒサ(佐藤さん)に慌ててメールをしました。「どれくらい付き合ってましたっけ、私たち?3、4年だと思うんですけど」「一緒に旅行いったのかな?」「プレゼントってくれた?」「どっちから声かけたの?」みたく、些細なことのすり合わせを100問くらい。撮影前日に「今日中に返信をお願いします」と強引なメールをしたのを覚えています。


佐藤博行(以下佐藤):みんなとのメールのやりとりを通して役っていうのを考えられるようになったし、(他の)みんながどういう人なのかっていうことが伝わってくるじゃないですか。 面と向かうと言えないこともメールだと言えたりするので、僕も意図的に色々書きました。

高木公介(以下高木):だから、どこまでが役で、どこまでが本人なのか分からない。前川さん(サエコ)を好きになりたいから、遊びに行きたいって言ったら、曖昧にされたんですよ、「都合が合えばいいですね」みたいな。前川さんで答えてるんだろうけど、サエコでも答えているような気がして「どっちなんだろう?」っていうのがありましたね。






役者が何を考えているか分からないとカメラは混乱する。それが狙いでした(内田監督)
- ここまでリアルに作り上げられると、恋愛ドキュメンタリーと言ってもいいと思います。生々しさを出していくものはなんだったのでしょうか?
内田:演出する上での話になってきてしまうんですけど、ドキュメンタリー性っていうことでいうと、役者さんに自由にやらせて、僕はそれを自由に撮るっていうかたちを常にとっていました。ひとつの役が器のなかに収まらないように、役者が考えて、撮影する側の僕も役者が何を考えているか分からないっていう状態にまでなれば、きっとカメラは混乱するし、その混乱を写すというのが、最初から狙いで常に意識していました。

佐藤:監督から、こういう感じでやりたいと渡されたのがデイズジャパンっていう雑誌と「かざあな」のDVDでした。デイズジャパンは戦地の写真とか載っていましたね。

内田:アフリカのナイロビか何かの内戦というか、暴動の様子を撮った写真の緊張感が、映像のなかで、フィクションのなかで撮れればいいっていうので、一番最初に見せた覚えがありますね。結果的にみると、劇場でも笑っている人達がすごく多いんですが、撮影段階で、ぼくらはこの緊張感で臨みました。結果的にそれが笑いになるのは、それはお客さんの自由になってきますし、やっぱり悲劇のなかに喜劇っていうのが隠されているような気があるので、編集しててもこれは笑いが出るだろうなっていうのは確信的に。撮影中は分からなかったですね。

全然違う人間が入り込んで、自分の中で何かが壊れていく感じがありましたね。(加藤さん)
私自身が、シゲヒサをすごく好きになって、軽くなれなかった(前川さん)
― 良くも悪くも4人の人間関係に大きな影響を与えるシゲヒサという存在について一人一人の気持ちお聞かせ下さい。

加藤:ユカコという役と自分が結構違うキャラクターなので、全然違う人間が入り込んで、自分の中で何かが壊れていく感じがありましたね。ちょっとわがままかもしれませんが、プロットを全部忘れてこの役を生きてみたいと思いました。「シゲヒサは孤独のあまりに悪態をつき、嘘をつきすぎた孤独を背負いきれなくなって戸惑っている。その孤独を知っているのは私だけ」というように、ユカコの立場からみたシゲヒサを信じようと思いました。

内田:プロットは文章だし、僕ひとりの想像でしかないので、演じる人は、それを超えないといけないと思うんです。それでOK。プロットの良さってそこだと思うんですよね。プロットは幅が広くて自由な部分があるので、どう自分で料理していくかっていうのは役者任せにしました。


前川桃子(以下前川):メールでも、現場でも、佐藤さんが作ってきたシゲヒサっていうのがとても魅力的でした。浮気相手だっていうのは分かっているし、辛いけども好きっていう気持ちが強かったんですよ。この関係性をはっきりして、別れるくらいなら、今のままでもいいとまで思っていて、私自身が、(シゲヒサを)すごく好きになってしまっていました。最初の内田さんから頂いた、サエコのイメージって軽くて、本音を言わない自由奔放な感じだったのですが、そこからどんどん離れていって、本心とは違う気持ちで映画の中で演じるのは難しかったですね。

内田:もし責めないでいいとなったら、全然違うところになっていたでしょうね。僕の好きな原一男監督に「現場にさざ波をたてる」っていう有名な言葉があるんですけど、無理矢理にでも責めることで現場にさざ波が欲しかった。本当にドキュメンタリーみたいな感じになっていますが、強引にやってみようかと。


前川:我慢すると、バーっと出る時があって、好きだからこそ積もっていたんだなと気づきました。だから、サエコとしてはシゲヒサはずるくて嫌な奴ですけど、本当に惚れさせてくれて、はまる人がいるのは分かる気がします。

高木:最初会った時から(シゲヒサは)苦手だなと思っていました。だいたいこういう人に自分の彼女を盗られる。本当に10対0で負けている。そこをどうにか、1点を取りたいなと思っているのに、ノボルは劣等感の塊なので、結局「自分が悪い」って思ってしまうんですね。







「一番昔から流行している“恋愛”というゲームにみんなはまっているんだ」と冷めてみているのがシゲヒサ。(佐藤さん)
― シゲヒサを演じられたご本人はどう思われましたか。
佐藤:シゲヒサは色んなことに手を出すんですけど、みんな女性を神秘的に見ていて、浮気ではあるけれど、ひとりひとりの女性の良いところをみていると思うんです。だからもう全て(どんな女性でも)100%恋愛できる人間なんですね。人間って絶対、恋愛するじゃないですか。恋愛することが、人間としての価値というのが僕にはあるんですよね。「一番昔から流行している“恋愛”というゲームにみんなはまっているんだ」というちょっと冷めたところを持っている人間なんです。

内田:僕自身のシゲヒサ像としては、アダルトチルドレン。幼い頃に何らかのトラウマみたいなのがあって、考え方っていうのがねじれて、ねじれていって、八方美人になっていくっていうのがありました。


憑依するっていうのは、すごく重要なこと。放置して役者それぞれを追い込むのが一番良いような気がしてるんです。(内田監督)
- これだけみなさんがもう1人の人格を熱く語れることに驚かされます。役に入るとは全然違う、例えばユカコっていう人間が入り込んできて、ユカコとして生きるって感じが近いです。憑依した感じといえばいいでしょうか。

内田:演技をするうえで、憑依するっていうのは、すごく重要なことだと思いますね。例えば、チラシの表紙のこの写真を見ても、いまのめぐみさんと表情が全く違うんですよね。やっぱり、ユカコが憑依している。こう入るにはどうしたら良いのかなっていう風に考えたうえで、僕は放置するっていう方法になりました。役者それぞれが追い込んでいくっていうのが、役作りの上では一番良いような気がしてるんです。こういう作り方もひとつ、演技を撮るというか、役を、キャラクターを撮る上ではひとつ重要なものなんじゃないかなと思ってますね。

― ロッテルダム国際映画祭ではどのような反応がありましたか。
内田:ほとんど東京フィルメックスの時の反応と変わらなかったですね。ほぼ同じところで笑いが起きていましたね。ドッと。それがもうちょっと過激になったのかな。あとは、たくさん佐藤さんが声をかけられた。バットボーイって。


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取材・編集・文:白玉 スチール撮影:斎藤文 編集協力:魚子

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