『田中さんはラジオ体操をしない』―彼が解雇された理由は、「ラジオ体操をしなかったから」?

  • 2011年07月02日更新

― 解雇されてから25年間、田中さんは毎日、元勤務先の前で抗議活動をおこなっている。

自分を解雇した会社の正門前で、25年間、毎日、抗議活動を続ける人がいる。

1981年6月29日、田中哲朗さんは突然、勤務先に解雇された。多くの人が企業名を知っている、東京の某大手電機会社である。

以来、25年に渡って毎朝、田中さんは元勤務先の正門前で、ギターを手にして歌い続けている。たったひとりでおこなっている、不当解雇に対する抗議活動だ。解雇された日にちなんで、毎月29日には座りこみ行動をする。これらの活動は現在も続いている。

オーストラリア人のマリー・デロフスキー監督は、インターネットで偶然知った田中さんに興味を持って、彼の活動と人となりに迫ったドキュメンタリー映画を撮ろうと決意。本作『田中さんはラジオ体操をしない』は、原題を”TANAKA-SAN WILL NOT DO CALLISTHENICS”というオーストラリア映画なのである。

― 田中さんが解雇された理由は、「ラジオ体操をしなかったから」?

田中さんが解雇された理由。それは、「始業時間前に行われるラジオ体操を拒否したこと」がきっかけである。給料が支払われない自由時間にラジオ体操を強要されることに疑問をいだいた田中さんは、連日、着席し続けて抗議の意志を表明した。その結果、左遷を命じられたが、断固、拒否。最終的に、解雇通告を受けた。

「ラジオ体操の強要は、企業による従業員への人権侵害のひとつ」と、田中さんは解釈した。現在は塾の経営と音楽活動で生計を立てている彼は、元勤務先への抗議活動を続ける傍ら、人権侵害に苦しむ人々の支援や、いわゆる「いじめられっ子」のサポートなどを、積極的におこなっている。

― 「今の日本人は頑固じゃなさすぎる」と、田中さんは言う。

「人権侵害がテーマのドキュメンタリー」と聞くと、難解で重苦しそうな印象を受けるが、田中さんが社会に対して示す行動の数々は、多くの人にとって身近な問題が源になっている。突然の解雇はもちろん、「わが子が学校でいじめを受けている」、「旅行のお土産を、職場で自分だけが配られなくなった」、「組織の方針に抑圧されて、精神的にダメージを被った」 ― これらの言葉から、周囲の誰かや自分自身の状況を連想する人も多いだろう。田中さんが協力する人たち、田中さんを支援する人たちは、こういった近しい問題に向きあっている人々である。

「今の日本人は頑固じゃなさすぎる」と、頑固を自認する田中さんは言う。奥ゆかしくて協調性があることは、一般的な日本人の美徳のひとつだが、場合によっては、自分の意見や意志を抑制する枷にもなりうる。田中さんの活動や思想に共鳴するかどうかは、人それぞれだ。ただ、「正当な環境で、健全に生きるため」に、現代の日本人は、自身が暮らす状況をじっくりと見つめて、ときには、自分の考えを声高に述べる必要があるのかもしれない。その意義と重要性を、田中さんの行動は教えてくれる。

※当サイトでは、田中哲朗さんが登壇する『田中さんはラジオ体操をしない』の初日舞台挨拶を取材し、同日、田中さんにインタビューをおこなう予定です。その模様は後日、掲載致しますので、どうぞご期待ください。

▼『田中さんはラジオ体操をしない』作品・公開情報
2008年/オーストラリア/75分
原題:”TANAKA-SAN WILL NOT DO CALLISTHENICS”
監督・撮影:マリー・デロフスキー
編集:モーガン・グレゴリー
録音:グレッグ・フィッツジェラルド
音楽:田中広幸 田中哲朗 デイヴィッド・ミッチェル
プロダクション・コンサルタント:マーク・グレゴリー
製作:ブルー・ルーム・プロダクション
配給・宣伝:浦安ドキュメンタリー・オフィス+スリーピン
出演:田中哲朗 田中かおる 田中 剣 田中広幸 北野好人 根津公子  長橋美保 上田恵弘 ほか
『田中さんはラジオ体操をしない』公式サイト
※2011年7月2日(土)より、新宿K’s cinemaにてモーニング・ショー。

文:香ん乃


  • 2011年07月02日更新

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