『127時間』―死を目前にして、人が思うこととは?

  • 2011年06月20日更新

断崖で落石に右腕を挟まれ動けなくなったクライマー、アーロン・ラルストン。そこは人の気配がまったくない大自然の渓谷のすき間。水も食糧もほとんどない中、迫りくる死の恐怖と闘いながら過ごした“127時間”。アーロンが最後にくだした衝撃の決断とは──。

『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞を受賞したダニー・ボイル監督が贈る奇跡の実話、2011年6月18日(土)より、TOHOシネマズシャンテ、シネクイントほか全国ロードショー。

金曜の夜、仕事を終えたアーロン(ジェームズ・フランコ)は、あっという間に荷造りをし、いつものように誰にも行き先を告げず車を走らせる。早く目的地にたどり着きたいアーロンの急く気持ちと高揚に、疾走感溢れる音楽が絡み合ってひたすらカッコいい。クールなカット割りもミュージック・ビデオさながらだ。

今回の行き先はブルー・ジョン・キャニオン。何度も訪れたことがある勝手知ったるアーロンの第二の故郷だ。夜が明けると、車に積んだマウンテンバイクにまたがり音楽を聴きながらビッグ・ドロップへ向かう。途中、道に迷った2人の女性にガイドブックにはない秘密の場所を案内し、楽しい時間を過ごす3人。別れ際に彼女たちにパーティに誘われ気分も上々。軽快に岩を駆け抜けていた。

次の瞬間、岩が崩れ、アーロンはその岩とともに狭い谷底に落下。しかも、彼の右腕に岩が重くのしかかり、宙吊りのまま動けなくなる。叫んでも誰にも届かない広大な大自然の中。さっきまで一緒にいた彼女たちにも届かない。冷静を保ちつつ荷物を確認する。持ち物はわずかな食料と水、小さなナイフ、ロープ、ライト、ビデオカメラ。ナイフで岩を削ったり、ロープで岩を動かそうとしたり、はさまれた腕を切りつけてみたり…。できるかぎりの策を試みるも、どれも脱出の糸口にすらならなかった。

アーロンは正気を保つため、ビデオに記録を残し始める。両親にメッセージを残しながら、死を目前にして初めて自分の人生と向き合う。今まで自分は家族にも、恋人にも、友人にも心を開いていなかった。誰にも行き先を告げてないのもその証拠。身体を引き裂かれるような後悔。新しい人生を生き直したい。何がなんでも生きて帰りたい。湧き上がる命への情熱がアーロンを奮い立たせた。

本作はほぼアーロン一人の映画で、アーロン役のジェームズ・フランコが素晴らしい。ジェームズ・フランコといえば『スパイダーマン』シリーズが思い出されるが、本作で完全に新境地を開いたであろう。アカデミー賞主演男優賞ノミネートも大いに頷ける。極限状態の感情、それを抑えて冷静になろうとする心情、周りに何もないシンプルなシチュエーションだからこそ演技力がものをいう。もちろん、ダニー・ボイル監督の手腕もあるだろうが、一人で観客を惹きつけ続けたその演技に拍手を送りたい。

127時間=5日間。野ざらしで身動きできず、飲まず食わず。助けがくる可能性はゼロ。もし自分がこの状況下におかれたら? とても正気ではいられないだろう。もしそうなったら…と考えてはみるものの、まさか自分がと思っていたりもする。しかし、何があるか分からないのが人生。後悔なく生きているのか自分に問いかけた。この映画を観ている間、ずっと体に力が入っていたのだろう。観終わったとき、全身ガチガチで疲れきっていた。しかし、後味がよく前向きな気持ちになれるのだ。アーロンの強い精神力と勇気、そして諦めなければたどりつける希望があることを教えてくれる。いろいろな意味で凄すぎる実話である。

死を目前にして、人が思うこととは─。

この映画は、いま自分にとって一番大事なことを気づかせてくれるかもしれない。

▼『127時間』作品・公開情報
アメリカ・イギリス/2010年/94分
原題:”127HOURS”
監督:ダニー・ボイル
脚本:ダニー・ボイル&サイモン・ビューフォイ
原作:アーロン・ラルストン「127時間」(小学館文庫)
出演:ジェームズ・フランコ
共同配給:20世紀フォックス×ギャガ
コピーライト:(C) 2010 TWENTIETH CENTURY FOX
『127時間』公式サイト
※6月18日(土)TOHOシネマズシャンテ、シネクイントほか全国ロードショー

文:那須ちづこ
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Soundtrack 127時間 (小学館文庫)


  • 2011年06月20日更新

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