『エクレール・お菓子放浪記』近藤明男監督、山崎未花さんインタビュー―石巻での撮影では俳優とエキストラが自然に気がしれた仲間という雰囲気に

  • 2011年06月09日更新

食べ物を盗み更生施設に入れられた戦争孤児アキオがお菓子の歌に希望を見出し、放浪する姿を描く『エクレール・お菓子放浪記』。撮影が行われたのは震災前の石巻を中心とした東北地方。エキストラを始め、多くの地元の協力を得て、昭和の懐かしく美しい情景が収められた。今回は近藤明男監督とアキオ少年と心を通わせる街の娼婦ミカを演じた山崎未花さんに東北ロケの様子を中心にお話を伺いました。東北の人々に助けられた撮影からこの作品が東北の人々の支えになることを願います。


「10年したらおばあさんの役が来ると思うんだけど、早く来ないかな」といういしださんの言葉が頭の中にこびりついていました。(近藤監督)
-いしだあゆみさんに、今までのイメージとは違うパワフルで欲の深い老婆の役をキャスティングした経緯を教えていただけますか?
近藤監督(以下近藤):この映画の中であれだけ深い人間像はないですよね。原作はあそこまでどぎつくない。原作者、西村滋さんがこのお話はフィクションだとおっしゃっていたけれど、おばあさんは実在で戦後も親しくしていたそうなんです。そこで、「あ、やっぱりここだ(養母だ)!」と。ここの人間さえしっかりできれば、ここをちゃんとした人間として描いていけばと考えました。以前、いしだあゆみさんを紹介してもらった時、いしださんが「私も後10年したらおばあさんの役が来ると思うけど、早く来ないかと思って待ってるんです。」って言ったのが頭の中にこびりついていてね。スタッフに「(養母の役は)いしださんっでどうかなあ」って言ってたら、それがどんぴしゃりだった。

-あのおばあさん(養母)は戦争の現実的な影を描いていました。

近藤:普通で言えばあくまでも助演ですが、演技から言うと主演なんですよ。ストーリーはアキオを軸に彼の放浪を描いているけど、一つの戦後と戦争の時代を見たとき、おばあさんが背骨になってるんですよ。

実は吉井君じゃない子でやろうと…ただ、あの歌を聞いた瞬間にもうこれはこの子だって思いました。(近藤監督)
-実際、撮影をするにあたりいしださんの印象というのは変わりましたか?
近藤:いしださんは一発勝負型の方。僕は割に計算してくる芝居の人と多く付き合ってきたから、テストをしてても一回一回違う一発勝負型の女優さんはちょっと意外でした。キャリアのあるスタッフを連れてったことで、僕に対する安心感があったのか撮影はスムーズでしたよ。

―アキオを演じる吉井君を選んだ点についてお聞かせ下さい。
近藤:実は吉井(肇一)君じゃない子でやろうと思ってたんですよ、ある事情でキャンセルになってしまって。吉井君はわらをつかむような思いで紹介してもらいました。予定していた役の年、二つくらい下。小さいなと感じましたよ。ただ、あの歌を聞いた瞬間にもうこれはこの子だって思いました。
 

俳優とエキストラがみんな一緒に食堂にいるから自然に気がしれた仲間という雰囲気に(山崎未花)
-撮影をされたのが石巻を中心にした東北と言うことなんですが、なぜ東北の地を選ばれたのでしょう。
近藤:僕にこの作品をやりませんかって言った方が仙台の映画館の支配人なんです。僕の前作を観て、「新人監督だけど、もしかしたら撮影所を育ちの人じゃないですか?」って最初に言ってくださった方。その映画館の支配人が「仙台にはロケ地としてこういう所があります」って石巻の岡田劇場や登米市の旧登米尋常小学校を見せてくれたんです。それからスタジオがあるんですが映画をやったことがないからタダで貸してあげますという。映画を撮る環境として条件が揃っていたんですね。

- 石巻には震災後は?

近藤:行ってないんです。もうちょっとしたら行きたいと思ってるんですけれど。
山崎未花:(以下山崎):上映会が出来たらいいですよね。写真もいっぱいあるから、それを見せに行ってあげるとか。

-戦後の荒廃した街にある食堂のシーンは街の人々が集まって温かくなる場面でした。

近藤:自分で言うのもなんだけど(笑)あの食堂はのものすごくいいシーン。
山崎:子供たちとも仲良くなったんですけれど、撮影の合間にも近寄ってきて「写真撮って」とか「遊ぼう」って言ってきたりとか。吉井君に対してもみんなで仲良くして。
近藤:あの子役はみんな現地で選ばれた子達ですからね。
山崎:食堂のシーンや、のど自慢のシーンで、たくさんの人としゃべってエキストラの皆さん人たちとも本当に仲良くなりました。夕方になってくると、「エキストラってこんなに長く拘束されるって知らなかった、ちょっとつらいなあ」って本音がもれてくる(笑) 「いや、でも、もうすぐ終わりますよ」って励ましたりしていました。俳優とエキストラがみんな一緒に食堂にいるから自然に、「必死で生きてるけど気がしれた仲間」という雰囲気になるんですね。何度も写真撮らせて下さいって言われたんですけど、撮影中の格好で写真をとると本当に(みんな全員)懐かしい昭和の姿。楽しく写真を撮りました。

普段は焼酎飲む人が、その前にエクレア食べて、から焼酎に行きたいなと思ってくれたら正解(近藤監督)
-戦後の甘いものに憧れる子どもたちを見ると、この映画を見た後、絶対エクレアが食べたくなります。
近藤:わかります。ぼくはこの映画の監督になって昨日初めて「どんな映画にしたいですか」って聞かれて、「この映画を見た後に、普段は焼酎飲む人が、その前にエクレア食べてから焼酎に行きたいなと思ってくれたら正解です」と答えました。極端にいえば甘いもの食べたいって思ってもらったら大正解。甘いもの食べたいって気持ちをわかってくれて、せっかくだからエクレアにしない?って思ってもらえたら、もう大成功ですね。
山崎:いつもより甘いと感じそうですよね

監督・脚本:近藤明男
1947年東京生まれ。1970年、早稲田大学教育学部を卒業後、大映に入社。
増村保造や市川崑らの助監督としてキャリアをスタートさせる。後にフリーランスのチーフ助監督として、増村作品『大地の子守歌』(1976)や『曽根崎心中』(1978)、『この子の七つのお祝いに』(1982)、市川崑作品『ビルマの竪琴』(1985)などに参加。1985年、日仏合作『想い出を売る店』で監督デビュー。監督第2作『ふみ子の海』(2007)は、ホール自主上映を中心に上映が続けられ、封切後3年を超える異例のロングランとなっている。特に東北地方では動員12万人以上を数える大ヒットとなった。同作で第24回山路ふみ子福祉賞を受賞。

女優(ミカ役):山崎未花
高校卒業後劇団四季へ。数々の舞台、ドラマなどに出演し、現在劇団NLTに所属。今回が映画初出演。

 

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撮影・文・編集:白玉  

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