『エクレール・お菓子放浪記』-甘さに飢えた時代。お菓子のような希望を運ぶ少年

  • 2011年06月01日更新

昭和18年、日本の子ども達が食べ物に飢えていた時代。食べ物を盗んで不良の更生施設に入れられたアキオは女教師が歌う甘美なメロディを耳にする。「お菓子の好きな巴里娘~ 選る間も遅しエクレール」厳しい感化院生活の中で遠い国のまだ食べたことのないお菓子に憧れ、歌を歌う事で生きる希望を見出した少年はやがてある女性の養子として施設を出る。撮影は震災前、石巻を中心とした東北地方で行われ、懐かしく美しい風景に満ち溢れている。テアトル新宿で上映中。 

食べることに必死だった時代。憧れのお菓子は甘い歌にのって。
昭和18年。食べ物を盗んでいた孤児のアキオは感化院(素行の良くない児童のための更生施設)に送られる。ホワイトサタンと呼ばれる指導員を中心に子ども達に対する風当たりは強い。体罰におびえる毎日の中で院長秘書、陽子の歌声だけがアキオの心に優しく甘く響く。『お菓子の好きな巴里娘 二人そろえばいそいそと 角の菓子屋へ「ボンジュール」 選る間も遅しエクレール』。アキオはまだ見ぬエクレールという菓子に憧れ、女教師と一緒に歌う事で温かく幸せな気持ちになっていく。院を辞める陽子の推薦を受けて、アキオは独り身の老女野田フサノの養子となり、初めて家族を持つ。映画館で働く充実した日々が始まるが、そんな時、アキオは不注意からけがをしてしまう。働けなくなったアキオの代りを探そうとするフサノの会話を偶然聴き、アキオはショックを受けて家を飛び出す。

 実在の強欲老女を演じるいしだあゆみ、両親付添を拒否して孤児の役に立ち向かう健気な少年
アキオの養母となる、金に汚く欲の深いフサノを演じるのはいしだあゆみ。女優いしだあゆみのイメージを覆す、パワフルで金に執着するずうずうしい強欲老女ぶりは圧巻。近藤明男監督が原作者西村滋氏に聞いたところによるとフサノは実在する人物をモデルに描かれているそうだ。暗い時代の中で一人強く生きていたフサノは強欲でなければ生きられず、時に子どもの気持ちを傷つける影の存在。その影の強さが戦争をしぶとく生き抜いた人のリアルな姿として描き出される。一方、孤児アキオを演じるのは吉井一肇。レ・ミゼラブルのガブローシュ役を始め、多くの舞台経験を持つ。撮影中、10歳の少年が一人で生きてきた気持ちを味わうため、両親の付添を拒否し、独り宿に泊って身の周りのことを全て自分でしていたという。彼の歌う『お菓子と娘』には健気な役者魂が宿っているのだ。

 震災前、東北の美しい景色に満ちた撮影現場
撮影は震災前、石巻市を中心に東北で行われた。古い映画館、蔵の町並み、北上川河口の葦原など昭和の空気をたっぷり含んだ美しい風景に会いに行こう。






▼『エクレール・お菓子放浪記』作品・公開情報 
日本/2011年/105分
原作:西村 滋(「お菓子放浪記」理論社刊/文庫版「お菓子放浪記」講談社文庫)
監督:近藤明男
出演:吉井一肇(新人)、早織、遠藤憲一、高橋惠子、林隆三、いしだあゆみ
配給・宣伝:マジックアワー+『エクレール・お菓子放浪記』全国配給委員会
(C)2011「エクレール・お菓子放浪記」製作委員会
● 『エクレール・お菓子放浪記』公式サイト

テアトル新宿にて絶賛公開中!ほか全国順次ロードショー      

文:白玉

  • 2011年06月01日更新

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