映画の達人―深田晃司監督、真面目な姿がたまらなくおかしい喜劇

  • 2011年05月24日更新

「映画の達人」は映画界で活躍する皆さんに愛してやまない映画について語っていただくコーナー。第8回目は『歓待』が公開中の深田晃司監督に「喜劇」映画について熱く語っていただきました。触れられたくない家族問題に、ずかずかと入ってくる謎の男、加川と加川に問題を掘り起こされて緊張する小林家の人々の関係を描く『歓待』。日常の人間関係の中にこっそりと笑いをしかける深田晃司監督の愛してやまない喜劇は 笑わせようと思って作られた喜劇ではなく、大真面目に生きる人々がおかしくて笑えてしまう喜劇。作り手が面白さにふりまわされず、遊び心と緊張感を持ったお勧め作品は、コメディのジャンルでくくれない“笑って楽しめる”名作ばかり。笑いのバリエーションの広さに驚かされるセレクションです。

深田晃司の『喜劇』はこれを見ろ
1. アクションで笑う―バスター・キートンのセブン・チャンス
2. ささいな日常を笑う―木と市長と文化会館
3. リアリティを秘めたフィクションに笑う―徳川セックス禁止令 色情大名
4. 自分を重ね合わせて笑う―歓待

所謂コメディではなく、“笑えてしまう映画”
笑わそうとしている喜劇は好きではないですね。登場人物がみんなまじめで笑わそうとしていないんだけど、見ている人たちは笑えてしまうっていうものが好きなんです。今回選んだ作品は面白さに酔わない、面白さに甘えない作品。僕は大爆笑の一歩手前で止めるっていう、コメディの寸止め感って好きなんですよね。 寸止めしないでもっといったら絶対面白くなると分かっていてもそこまで行かない。作り手が自分の作るものとの間にちゃんと距離が取れている、自分に酔ってない作り手は信頼できると思うんです。今回は信頼できる三本をご紹介します。Ⓒ2010「歓待」製作委員会

  

1. アクションで笑う― バスター・キートンのセブンチャンス
最初に見たときにあまりに面白くて衝撃でした。人間の営みなんてそれ自体がおかしいもの。結局そんな真面目になることないよっていう作り手の視点が心地いいんです。特に好きなシーンはキートンが真顔で走るラストの大疾走。表情豊かなチャップリンと比較されますが、キートン自身は絶対笑わないんです。そのままワンカットで一切編集なしで見せるって言うのはすごい。アクションのすごさ。生のすごさ。CGなんてない時代にワンカットで見せちゃうあの心意気に驚くしかありません。映画は結局はアクションの積み重ねでしかない、という当たり前の事実を思い知らされます。

深田晃司の喜劇映画はこれを見ろ!
『バスター・キートンのセブン・チャンス』1925年 監督:バスター・キートン
証券会社を営むジミーは事業がうまくいかず、破産寸前。恋するメアリーにプロポーズすることもできない。そんな時に祖父からの遺言状が届く。700万ドルの遺産がある条件をクリアすれば手に入るという。その条件とは誕生日の今日までに結婚していること。ジミーはメアリーにプロポーズするが。発売:アイ・ヴィー・シー価格:3675円(税込)

 

 

2. ささいな日常を笑う―『木と市長と文化会館』
ささいな日常生活のそこかしこに喜劇的な状況っていうのは隠れています。人間のすれ違いというのは面白い喜劇。好きな監督をひとり上げろといわれたらとりあえずロメールと答えるくらいロメールは好きな監督なんです。 彼のすごさは日常のアクションも会話もすべてが物語の歯車ではなく映画のモチーフとして映し出されること。それと抜群の構成力。作品中の会話の中で決定的に大事な本音というものをしゃべることはほとんどんないにも関わらず、ロメールは人と人のコミュニケーションの中に感情をうかびあがらせることができるんです。注目すべきもう一つの点は ロメール作品の唯一の政治映画といわれていること。市長が推進していた文化施設建設をテーマに地元の反対派と市長の対立みたいなものが面白く描かれていんですが、対立がいきなりミュージカルになっちゃうところがすごい。対立があるんだけど、政治に対立があってもいいじゃないかと朗らかに歌いあげているんです。市民ひとりひとりが政治に屈託なく参加していく、成熟した政治意識。あれこそ今の日本に求められる政治映画じゃないかな。 ©Les Films du Losange/C.E.R 

 深田晃司の喜劇映画はこれを見ろ!
『木と市長と文化会館』1992年 監督:エリック・ロメール
パリの南西部ヴァンデ県サン=ジュイールの市長ジュリアンは市の空き地に文化会館を建てる計画を進めている。しかしながら、彼をとりまく人々は必ずしも文化会館建設に賛成しているわけではない。恋人である作家、市の教師、記者、子ども。様々な意見と向き合うジュリアンの出す結論は?発売元・販売元:紀伊國屋書店 価格:¥5,040(税抜¥4,800)
 

3. リアリティを秘めたフィクションに笑う― 徳川セックス禁止令 色情大名
作品中の人物はすごい真剣なんですよね。男性主義で女性なんかって軽く見ているお殿様はセックスを拒否されて、「葵の御門をかさにきて」って激怒しているんだけど、セックスを拒否されただけ。そこ、そういうふうに怒るところ?って感じで、でもこの飛躍が、めちゃくちゃ笑える。ここで江戸と地方、権力者への反権力という作り手の意思がはっきり見えるんです。下地に作り手の強固な思想があるから、リアリティにつながっている。SFにしても時代劇にしてもファンタジーにしてもここまでやればリアルにみえるっていう境界を認識して、一流のスタッフが大真面目に遊ぶとこうなる。そのリアリティが笑いにつながって来るんですね。『徳川セックス禁止令』は裸をちゃんとだせば、あとは作家がどんなことをしてもいいというロマンポルノの土壌で、 製作者が陥りがちな男性中心社会への無自覚な甘え、その鈍感さを自覚している。そういう意識があるかないかはロマンポルノだからこそ求められることで。自分の作っているものに対して批評的になれているのかっていうことが重要ですよね。

深田晃司の喜劇映画はこれを見ろ!
『徳川セックス禁止令 色情大名』1972年 監督:鈴木則文
十一代将軍徳川家斎治世。家斎の娘清姫が、九州唐島藩に嫁ぐ。唐島藩主の忠輝は武骨で女嫌い。清姫との夫婦関係もうまくいかない。一計を案じた家老米津勘兵衛は忠輝を女性の虜にさせるよう博多屋に命じる。博多屋が連れてきたのはフランス娘サンドラだった。『徳川セックス禁止令 色情大名』DVD発売中4,725円(税込)発売元:東映ビデオ 

 

4. 自分を重ね合わせて笑う―『歓待』
この物語は笑いとは違う部分、夫婦という社会的な関係では覆い隠せない孤独や外国人の排他の問題を核にしています。笑いをとろうと思って作っているわけではないんですよ。上映して、こんなに笑ってくれるものなのかと思いました。笑いは夫婦や社会におけるコミュニケーションから生まれてくる副産物。もちろん 笑いどころはあるにしても、作っているテーマとかそういったものは笑いを目指して笑わせようというもではないですね。喜劇の規定の中で言うと、この作品は大笑いできるという喜劇とは違うものかもしれません。何気ないコミュニケーションの中に喜劇性が潜んでいるということです。
喜劇というと、みんなが共感して大笑いするっていう作品が多いですが、自分が映画を作る上で意識している一つに映像のもつ政治性-特定の意識や行動へ誘導する宣伝行為-があります。映画は集団の感情を一つの方向性に巻き込もうとすればできる。でも、一本の映画で共感を誘ってひとつの感情に観客をその 感情に巻き込みたくない、むしろ巻き込んでなるものかってっ言う意地があるんです。スクリーンを前にして50人のお客さんがいたら、それぞれの積み重ねてきた時間や記憶によって、できる限り多様に解釈、多様な想像ができるようにしたい。見た人によって解釈が広がる余白をこそ映画の中心に据えたいと考えています。Ⓒ2010「歓待」製作委員会

深田晃司プロフィール
1980年生まれ。東京都出身。大学在学中に映画美学校に入学。プロ・アマ交えて多数の現場に参加。美学校修了後、2005年より青年団演出部に所属。2006年『ざくろ屋敷』を東映アニメーションより発表。映芸ダイアリーズの一員として映画評を著している。『東京人間喜劇』(09)、『歓待』(10)を監督。『歓待』は東京国際映画祭日本映画ある視点部門作品賞を受賞。2011年4月23日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマロサほか、順次全国にて公開。

 

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取材・編集・文・スチール撮影:白玉

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