『死なない子供、荒川修作』―「人は死なない」と発見した芸術家の生命論に迫る。

  • 2011年04月09日更新

「死なない家」に住んだ人々 ― “生命”の意味に迫る希望のドキュメンタリー

1960年代、ニューヨークを拠点に活躍した稀代の芸術家・荒川修作。パートナーのマドリン・ギンズと共に世界中で個展を開催し、大規模な建築作品をいくつも手がけた彼は、2005年、住むと人間は死ななくなるという「三鷹天命反転住宅」を建造した。自身がその住宅の住民であった山岡信貴監督は、そこでの生活や住民へのインタビューを通し、「人間は死なないことを発見した」という荒川氏の生命論に迫る。

「ここに住むと身体の潜在能力が引き出され、人間は死ななくなる」

三鷹天命反転住宅について、荒川氏が発言した言葉である。およそ常識では考えられないことだが、山岡監督はここに住むようになってから、毎年悩まされていた花粉症が改善したり、自然に痩せたりと、不思議な「良い変化」が身体に現れたという。「芸術家になるにはまず科学者にならなくてはいけない」とも言う荒川氏の頭の中では、その物理的・科学的なメカニズムが構築されているのかも知れないが、それを私達が理解することはなかなか難しい。しかし、この住宅に住み続け、生活し、子供を育てた山岡監督の数年に渡るドキュメントは、荒川氏の考える「生命とは何か」を、私達にやわらかに伝えてくれる。

14色の内外装、色の組み合わせが異なる部屋、丸い空間、でこぼこの床、たくさんの窓。見た目だけでもわくわく、好奇心が抑えられなくなる奇想天外な住宅は、まるでそれ自体が細胞の固まりのようだ。この中に住むとは、どういうことなんだろう? と疑問を持たざるを得ないが、そこには様々な住民が“普通に”暮らしている。この住宅には人それぞれの「使用法」があるとされているが、まずは彼らの生活を覗いてみることで、私達が普段考えている「暮らし」の固定概念が取り払われることだろう。そして、ここで生まれ育つ子供達の姿を追った山岡監督の目線や語りかけからは、「生命」と「環境」との関わり合いに思いを馳せずにはいられなかった。

享年73歳 ー 2010年5月19日、ニューヨークの病院にてこの世を去った荒川修作は、もう私達に言葉で語りかけることはなくなった。しかし、彼の論理からすると、荒川修作は死んでいないはずである。もしかすると、残された建築作品のどこかに、世界のどこかに息づいているのかもしれない。そんな可能性を想像しながら鑑賞すると、よりこのドキュメンタリーが印象的に、心に迫ってくるはずだ。

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▼『死なない子供、荒川修作』作品・公開情報
日本/2010年/80分
監督:山岡信貴
音楽:渋谷慶一郎
出演:荒川修作 佐藤晴夫 ほか
ナレーション:浅野忠信
コピーライト:(C)rtapikcar Inc.
『死なない子供、荒川修作』公式サイト
※2011年4月2日(土)よりアップリンクにて上映。全国順次ロードショー。

文:しのぶ
改行

  • 2011年04月09日更新

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