『愛しきソナ』―団欒、結婚式、ボーリング……、北朝鮮の「普通」の日常。

  • 2011年04月02日更新

朝鮮総連幹部だった愛する父親への複雑な思いを描き、国際映画祭でも高い評価を受けたヤン・ヨンヒ監督の第1作『ディア・ピョンヤン』。作品公開後、監督は北朝鮮政府から入国禁止を言い渡された。それから5年、ヤン監督の新作『愛しきソナ』がついに公開される。今作では、ピョンヤンに住む姪のソナの成長を軸に、2つの国に離れて暮らす家族の姿がカメラに収められた。

在日2世のヤン監督の兄3人は、1972年、帰国事業で当時“地上の楽園”と呼ばれたピョンヤンに移住。幼かった監督は両親と大阪に残った。兄たちは北朝鮮で結婚し子供をもうける。姪のソナは次兄の2度目の結婚で生まれた天真爛漫な子だ。監督は訪朝のたびに成長するソナの様子や、兄の家族の姿をビデオカメラで撮影する。ソナが兄と一緒に歩いているのを見ると、昔自分が兄と一緒に歩いたことを思い出し、まるで彼女が分身のように思えることもあった。監督のソナや家族に対する温かい愛情、兄たちを北へ送り出した父と兄との微妙な距離、そしてそれぞれの内に秘めた思いをカメラは映し出す。

父親の支持する北朝鮮のイデオロギーへの違和感、また理不尽な理由でソナたちと会えなくなってしまったことに対する静かな抵抗など監督の複雑な感情を読み取ることはできるが、この作品は決して北朝鮮の政策を批判するものではない。これは、2つの国に分かれてしまった家族の姿を10年以上にわたって撮影した私的な記録である。

日本のメディアが伝える北朝鮮の奇異な部分しか知らない私たちには、北朝鮮の人々がボーリング場で遊び、家族で酒を酌み交わして楽しく食事をしたり、援助があるとはいえ結婚式を祝ったりする様子は新鮮に映る。彼らも“普通に”生活をしているのだ。もちろん、ソナの吟じる将軍を称える詩やマスゲーム、子供たちの歌や踊りのステージなど、いわゆる“北朝鮮らしさ”もところどころ出てくるが、それは生活の中の一部でしかない。

北朝鮮へ渡った兄たち、日本の文化に触れながらも今後も北で暮らすであろうソナや甥っ子たち、後悔をはっきりと口に出せない父、息子や孫のために物資を送り続ける母、時に主観的に時に客観的に彼らを撮影する監督。すべての人が抗うことのできない現実へのもどかしさを抱えながらも、お互いの幸せを本心から祈っている。それがこの作品に心を揺さぶられる理由なのかもしれない。

画面の中のソナのくるくる変わる表情はとても愛らしい。屈託なくアイスクリームを頬張る幼いソナ、家族の前でおどけて見せるソナ。カメラを回している監督のソナへの愛情がスクリーンいっぱいに溢れる。印象的なのは、10代になったソナが叔母との会話中、周囲の目を気にしてカメラを止めてほしいという場面だ。まだ大人になりきっていないソナでさえ、そのような状況を気にしなければならない“北朝鮮の日常”はいつまで続くのだろうか。普段のソナの笑顔がずっと続いてほしいと思わずにはいられない。

今後、北朝鮮という国がどのような方向に進んでいくのかは分からない。だが、入国禁止になったヤン監督と家族、またその他の北朝鮮と日本に離散した家族が一日も早く会える日が来ることを心から願う。

▼『愛しきソナ』作品・公開情報
韓国・日本/2009年/カラー/ドキュメンタリー/82分
監督・脚本・撮影:ヤン・ヨンヒ
エグゼクティヴ・プロデューサー:チェ・ヒョンムク
編集:ジャン・ジン
音楽:Marco
AND支援作品
制作:ZIOエンタテインメント
配給:スターサンズ
宣伝:ザジフィルムズ
『愛しきソナ』公式サイト
※2011年4月2(土)~22(金)ポレポレ東中野、4/23(土)より新宿K’s cinema他、全国順次ロードショー

文:吉永くま
改行

  • 2011年04月02日更新

トラックバックURL:http://mini-theater.com/2011/04/02/14793/trackback/