愛を見つけることを怖れているあなたのための処方箋-『心中天使』一尾監督インタビュー

  • 2011年03月02日更新

心中天使メインつながりたいけどつながれない、現代社会の複雑なコミュニケーションで変わりゆく人間の関係性を描いた『心中天使』が2011年2月5日より劇場公開された。2002年、『溺れる人』で劇場デビューを飾った一尾直樹脚本監督第二作目。今回は公開初日、舞台挨拶などで忙しい中、「関係性における自己存在の不確かさ」を一貫したテーマに持つ、一尾監督の心の内、作品にかける思いをインタビューしてまいりました。

尾野真千子さん、郭智博さん、ミスマガジン出身の桜井ひかりさん(元・菊里ひかり)の三人を主演に迎え、つながりたいけどつながれない人間の関係性を描いた『心中天使』。出演者自身も「不思議な映画」と言う、一尾監督の世界観は、多くの方の意見や評価を通して具体化されていくもの。一尾監督の作品への思いと実際の映画を見た自分の思いを重ね合わせてみてはどうだろう。

「画で語る映画」。より印象的に見えるような、より表現出来るような場所を探る作業

_0002316― 公開初日を迎えられて、いかがですか?

一尾監督(以下一尾):緊張しました。それと、ここからが始まりの部分もございますので、ほっとすると同時に、また気持ちを新たに頑張らなくては、と思います。

― かなり長い間、企画に時間をかけられて、ここまで辿り着いたそうですが。

一尾:期間で言うと8年くらいでしょうか。クランク・インまではなかなか出資が決まらなかったので、時間がかかったというのもありました。制作委員会には東京の企業も入っているのですが、今回は主に名古屋の企業に出資をしていただきました。

―見た目だけでも印象的なシーンがたくさんありましたが、芸術映画として、ロケ地や演出などで特に意識した点はありますか?

一尾:やはり「画で語る映画」だと思います。ロケ地、美術、場面づくりなどを第一に考えています。もちろん、私だけでなく美術監督や撮影監督と一緒に。ロケ地もスタッフと一緒に探しました。

― では先にシナリオがあって、イメージに近い場所を探して繋げていったということですか?

一尾:そうですね。例えば、普通は、シナリオに「公園」と書いてあれば公園を探すじゃないですか。でも、公園での会話は、別に公園じゃなくてもいい場合もあるでしょう?ただ落ち合うだけとか。そういった時に、公園じゃなくてもいいんじゃないか、という探し方をしていきました。より印象的に見えるような、より表現出来るような場所を、という風に。

ネット掲示板で叩かれて落ち込んだり、喧嘩して関係が悪くなることはもうリアル。そういう世界観が「心中天使」に反映されています。

_0002321― 前作では夫婦があるきっかけからズレが生じる、今作は逆に、全く関係のない3人が、ある同じ思いで繋がっていきますが。

一尾:前回は夫婦、親子や恋人もそうですが、二人という一番ミニマムな、最も基本的な関係性です。今回はもっと引いた目線で、ひとつの世界を見るような形で構成するというのが最初から目論見でありました。同じテーマを新しい方法論で作りたかったのです。

―現代社会のコミュニケーションもテーマになっていますが、作中には携帯電話やインターネットは全然出てきませんよね。

一尾:実は携帯やネットというものを、すごくこの映画は意識しています。「無い」ということで意識させるという、倒錯的な形をとっています。それらを出さないことは相当意図的にやっています。一応ツイッターもやっているんですけど、そう使いこなせていないです(笑)。ただネットを見るのはすごく好きで、色々なブログなどを見ます。昔は本や映画をよく見ていたけど、今はそれ以上にネットを見ている。やはり、それらが現代の人の心に与えている影響はすごいと思うんですよね。今の私達の世界の下部構造として、ネットの社会が存在する。

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―ネットは実際すごく面白いですし、中毒性すら感じます。ほぼ中心で動いていると言っても過言じゃないくらいですよね。リアルの付き合いじゃないのに社会が構成されてしまっているのが不思議です。

一尾:ネットの世界はリアルですよ。例えば掲示板で叩かれて落ち込んだり、喧嘩して関係が悪くなったりといったように、現実世界に影響している。それって僕にとっては、もうリアルです。そうでなければ、ネットで色々コミュニケーションして、知らない人と会ったりしないですよね?変な話、江戸時代の人がそれを見ても、なぜ知人のように話しているか分からないわけです。だからちょっと引いた目で見ると、昔と社会が全然違ってしまっている。そういう世界観が「心中天使」に反映されています。

尾野真千子さんや郭智博さんへの演技指導というものは殆どないです。ぴったりだったから。イメージそのままだったんです。

心中天使サブ2― 今回、主演の尾野真千子さんや郭智博さんは、沈黙も多く雰囲気や表情で見せる演技も多かったと思います。監督から二人にリクエストや指導されたことはありますか?

一尾:彼らに関しては演技指導というものは殆どないです。というのはもう、ぴったりだったから。イメージそのままだったんです。だから舞台挨拶でひかりさんが僕に演技指導されたという話をした時、尾野さんと郭さんは顔を見合わせて笑っていました(笑)逆に、ひかりさんの場合は少し実在感を出してもらっています。彼女には思春期に誰しもがとらわれるような感情を表現してもらっています。

―内山理名さんはどういった存在としてキャスティングされたのですか?

一尾:「主人公の3人の世界を俯瞰する存在です。観客と同じ目線とも言えます。(内山さんの抱く)猫もそうですが、3つの世界がリンクするための要のような存在ですね。

― 最後に観客の皆さんにメッセージをお願いします。

一尾:ぜひ柔軟な目線で見ていただいて、皆さんがいい感想でも悪い感想でも出していただければ、作品の見え方も変わってくると思います。そう言った意味で、作品を育て、作っていっていただければと思います。

心中天使サブ3『心中天使』作品公開情報

ストーリー

両親と実家暮らしのピアニスト、アイ。妻子と別れ新しい恋人と暮らす会社員、ユウ。恋人にのぼせる母親を他人事のように眺める女子高生、ケイ。「何かが違う」「大切な何かを忘れている」・・・突然「それ」は心に飛来し、3人の思いは現実世界と乖離していくー「関係性における自己存在の不確かさ」を一貫したテーマに持つ作品。

2010年/日本/98分/カラー/35mm/アメリカンビスタ/DTSステレオ

監督・脚本:一尾直樹

撮影:金子正人

音楽:倖山リオ

美術:安藤伸

出演:尾野真千子、郭智博、桜井ひかり(元・菊里ひかり)、國村隼、萬田久子、内山理名 他

配給=マコトヤ

●『心中天使』公式サイト

コピーライト:(C)2010「心中天使」製作委員会

※2/19(土)より 名古屋シネマテーク、小牧コロナシネマワールド、安城コロナシネマワールド、(引続き)豊川コロナシネマワールド、半田コロナシネマワールド ほか全国順次ロードショー!

取材、編集:しのぶ スチール撮影:五嶋 洋

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