『kocorono』 川口 潤 監督 インタビュー

  • 2011年02月09日更新

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1987年に北海道の札幌で結成されたロック・バンド bloodthirsty butchers(以下、ブッチャーズ)の「生の姿」を赤裸々に映したドキュメンタリー映画『kocorono』。このタイトルは、ブッチャーズが1996年に発表したアルバムのタイトルでもあります。本作は2011年2月5日(土)より、シアターN渋谷ほか、全国順次ロードショーです。

本作のメガフォンを執ったのは、アーティストの記録映像やライヴ・ドキュメンタリー等を数多く手がけてきた川口潤監督。『kocorono』の公開を記念して、川口監督にたっぷりとお話を伺ってまいりました。2003年に公開された西島秀俊さん主演の映画『すべては夜から生まれる』と川口監督との意外で密な接点にも話題が及んだロング・インタビュー、じっくりとお楽しみください。

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『kocorono』―激烈に衝突しあうからこそ成り立つ人間関係の一例。

― 『kocorono』の監督をなさることになった経緯は?

「実は、1990年代の初頭からブッチャーズのファンでした」

川口 潤 監督(以下、川口) 2009年の年末にキングレコードのプロデューサーから、「bloodthirsty butchers(以下、ブッチャーズ)のドキュメンタリー映画を作りたいから、監督をしてほしい」とお話があったのが、そもそものきっかけです。その時点では、バンドにはまだ企画について話していない状況だったので、僕のほうからブッチャーズのマネージャーを通してメンバーに打診をしたら、即答で、「いいよ。やりましょう」と言っていただけました。

実は、僕は1990年代の初頭からブッチャーズのファンで、その後、音楽関係の制作会社で働いていた頃に彼らと知りあいました。このバンドのメンバー全員と以前から親交があったんです。

『kocorono』サブ-2

― 劇中で、バンドのメンバーがカメラの手前にいる撮影クルーと会話をしているシーンがありますが、監督ご自身とお話しになっていたのでしょうか?

「メンバーと一緒にいるときの僕が撮影をしているのは、彼らにとって違和感のないことなんです」

川口 撮影スタッフは基本的に僕ひとりでしたので、おそらくそうです。被写体から話を引き出したいので、カメラをまわしながら会話をしたり、相槌を打ったりということをたびたびします。

本作を撮る前から、僕はブッチャーズと会うときはたいてい動画のカメラを持参していました。ですから、彼らと一緒にいるときに僕がカメラをまわしているのは、メンバーにとって違和感がないことなんです。

― 実質的な撮影期間はどのくらいだったのでしょうか?

川口 2010年の2月から9月の中旬までです。撮影をする許可が出てから、バンドの夏のライヴ・ツアーが一段落するまでの約9ヶ月間ということになります。

ツアーには、ほぼすべて同行しました。バンドが練習やミーティングをしている場にも、時間が許す限り足を運びました。

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― 劇中で、メンバー同士が対立して意見を闘わせるシーンがあって、観ている側としてははらはらしました。あのような場合、「自分が今、撮影されている」と意識すると、被写体はなかなか本音が言えないのではないかと考えますが、そのようなことはなく、生々しく撮影されていたとお見受けしました。監督は撮影をしながら、「自分は空気のような存在に徹する」と意識なさっていたのでしょうか?

「撮影をとめるようにメンバーから要望されたことは、一度もありませんでした」

川口 確かに、「今、映画の撮影がおこなわれている」という意味で、メンバーの意識は通常と少し違ったかもしれませんが、彼らの前にいる僕は以前から常にカメラをまわしている存在だったので、ものものしさはなかったと思います。

リーダーの吉村秀樹さんとドラムの小松正宏さんがよくぶつかりあうということは、僕も以前から耳にしていたので、いざ撮影でそうなったときは、「本当なんだなぁ」と思いました(苦笑)。メンバーには、「撮影されるのが嫌な場合は、言ってくれればすぐにカメラをとめる」と約束していたのですが、実際には、そうなったことは一度もありませんでした。

― 監督はバンドのメンバーと以前から親交があったわけですが、本作を撮影したことで、彼らの違う一面を見ることができたという感覚はありますか?

川口 長いつきあいなので、ギャップはまったくありませんでした。ただ、メンバー同士が対立したときに、ほかのメンバーが仲裁にはいらないで静観しているのは、とても不思議に映りましたね。でも、このような関係性で23年間成り立っているバンドなので、「こういうバンドは、ほかに見たことがないな」と実感しました。

『kocorono』サブ-4

― 企画の当初と、実際に本作が完成してからで、監督が観客にお伝えしたい内容に変化はありましたか?

「バンドに媚びて彼らをよいしょする作品にはしたくない、という気持ちは最初からありました」

川口 本作を撮影すると決まったときには、僕が伝えたいものというのは明確ではなかったんです。もちろん、観客を意識して作ってはいますが、「できたものがすべてだ」と思っているので、そういう意味で、ずれはありません。

ただ、バンドに媚びて彼らをよいしょする作品にはしたくない、という気持ちは心のどこかに最初からありました。

― 本作のような音楽ドキュメンタリーは、バンドのファンのかたがたや音楽に興味のあるかたがたは積極的にご覧になってくださいますが、そうでないかたがたに映画館へ足を運んでいただくのは難しいのが現状かと思います。公開にあたって、監督としてはどのような点をアピールしたいですか?

「『自分の好きなことを仕事にして生きていくこと』の一例として観ていただけたらよいな、と思います」

川口 音楽だけでなく、表現や創作を生業としているかたや、ものを作ることに興味があるかたには、共感していただける部分が多い作品だと思います。逆に、「この映画で描かれているようなことにはなりたくない」と、反面教師のように感じていただいても、まったく構いません。「自分の好きなことを仕事にして生きていくこと」の一例として観ていただければよいな、と思っています。

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また、被写体となっているバンドを「ひとつの家庭」に置き換えて観ることもできます。僕としては、「不思議な『家族』だな。こういう家庭はなかなかないよな」という思いで撮影をしていたので、観客のみなさまにも、そこまで感覚を広げて観ていただけたら、とても嬉しいですね。先ほどお話ししたように、仲間同士が対立してもほかのメンバーは仲裁しないわけですが、音楽はステージの上で成立しているので、相手のことを100パーセント理解していなくても関係は成り立つんです。それは家庭にも言えることだと思います。

「『(映画のジャンルの)片隅にいても、誠実に映画と向きあっている』自分のような人間がいることを知っていただきたい、という思いも強くあります」

普段から映画をご覧になっているかたは、(たとえ自ら表現活動をしていなくても)表現をするという行為に興味があると思うんですよ。劇映画と比べるとドキュメンタリーはマニアックに思われがちで、音楽ドキュメンタリーは更に「ジャンルの片隅にある」という印象が強いですが、「片隅にいても、誠実に映画と向き合っている」自分のような人間がいることを知っていただきたい、という思いも強くあります。

― 『kocorono』のお話からは離れますが、監督は『すべては夜から生まれる』に俳優として出演なさっていらっしゃいましたね。
※注:『すべては夜から生まれる』は2003年に公開された甲斐田祐輔監督作品。主演は西島秀俊さん。

川口 甲斐田祐輔監督とは二十歳の頃に知り合って、彼が「映画を作りたいから出演してよ」という感じで一緒に自主映画を作っていました。そういう関係を10年くらい続けていく中で、甲斐田監督が西島秀俊さん出演の劇場公開作品を監督するに至り、僕も出演することになったのです。特に役者志望だったというわけではないのですが、光栄にも西島さんのような素晴らしい俳優さんとご一緒させていただけて、とても勉強になりました。

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「甲斐田祐輔監督と知りあったことで、『監督』という視点で映画を観るようになりました」

僕は二十歳前後の頃、バンド活動をしていたのですが、たとえばブッチャーズのようなすごい音楽をしている人々を見ていて、「自分はなにができるんだろう」と葛藤していました。そういう時期に甲斐田監督と一緒に自主で映画作りを始めたり、彼にいろいろなヨーロッパ映画などを教えてもらったりしました。

もともと僕は松田優作さんや萩原健一さんが大好きだったので、それまでは「俳優って格好よいな」と思いながら映画を観ていたのですが、甲斐田監督と知りあったことで、「監督」という視点で映画を観るようになりました。映像制作の会社でアルバイトをするようにもなったのもその時期で、映画の観方が変わったのも、映像を作るようになったのも、今にして思えば、すべてが同時進行だったんです。

― 音楽ドキュメンタリーやプロモーション・ビデオを多く手がけられていますが、殊、「映画作家」として、今後はどのような作品を作っていきたいとお考えですか?

川口 音楽関係の仕事は当然ながら続けていきたいですが、劇映画のお話をいただければぜひやりたいですし、自分からもアプローチをしてきたいと考えています。ただ、僕は自分で脚本を書いた経験がなく、そういった仲間がいるわけでもありません。もちろん、自ら脚本を書かなくても映画は作れるのですが、「自分がなにをやりたいか、なにを発信するか」を改めて見つめ直す時期がきているとは思っています。

― ミニシアターの閉館・休館が相次いでいますが、今後、映画館に求めることやご提案はありますか?

「劇映画の出演者がイベントに登壇して、ファンと同じ目線に立って映画について語る機会が増えれば、観客の興味も深まるのではないかと思うこともあります」

川口 たとえば、「もっとスクリーンが大きいほうがよい」とか、「音響にこだわってほしい」とか、「ゆったりした椅子があればよい」とか、観客のみなさまのご要望は人それぞれいろいろありますが、そういったことは、多くの映画館が既にできる範囲内で実施していると思うんです。

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映画料金は基本的に1800円ですが、たとえばコンサートなどは安くても2500円くらいはするので、映画が特に高額だとは思っていません。映画料金が1000円になるサービス・デーがありますが、普段が1800円だからそういった日に観客が増えるわけであって、常に1000円だったら来場者が増えるというものでもないと思います。牛丼店やファースト・フードのように、価格を下げる競争になるのはよくないのではないかと考えています。

たとえば劇映画でしたら、出演者が舞台挨拶はもちろん、なんらかのイベントに登壇すると、ご来場くださるかたが増えますよね。ただ、映画の内容とあまり関係のないイベントでは、その場限りの集客力しかありません。ですから、出演者がイベントでファンのかたがたへ、「自分を見にきてくれて嬉しいけれど、この映画にはこういう観方もありますよ」といったふうに、ファンと同じ目線に立って映画について語る機会が増えれば、観客の興味も深まるのではないかと思うこともあります。既にそういったご活動をなさっている俳優さんは、たくさんいらっしゃいますけれど。

― 『kocorono』をご覧になるみなさまへ、メッセージをお願い致します。

「『DVDは映画の棺桶』だと思っています。映画は劇場で生きています」川口 映画館で観ることを意識して編集した作品です。もちろん、僕もよくDVDで映画を観ますが、「DVDは映画の棺桶」だと思っているんですね。「映画は劇場で生きている」ので、ぜひ映画館へ足を運んでご覧になっていただいて、そこで作品の良し悪しをジャッジしていただきたいと思っています。作品の見どころは、ご覧になったかたそれぞれに判断していただけたら嬉しいです。

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▼ 川口 潤 監督 プロフィール
1973年生まれ。SPACE SHOWER TV・SEP を経て、2000年に独立。その後、親交のあるアーティストを中心に、映像記録・制作を多く手がける。また、多数のミュージック・ビデオ、セルDVD、音楽番組を演出。2007年にニューヨークでおこなわれたイベント「77BOADRUM」のライヴ・ドキュメンタリー映画を、劇場公開作品として2008年に発表。その他の主な作品は、『envy/transfovista』(2007)、『Shing02/歪曲巡』(2009)、『eastern youth/ドッコイ生キテル街ノ中』(2010)等のDVDや、THA BLUE HERB、Discharming man、TWIGY、HUSKING BEE、HiGE、セカイイチといったアーティストのミュージック・ビデオ等がある。THA BLUE HERB のライヴDVD『PHASE 3.9』が2011年2月16日に発売(下記参照)。
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PHASE 3.9 [DVD] 『PHASE 3.9』DVD
川口監督の編集による、北海道の札幌を拠点に活動しているヒップホップ・グループ THA BLUE HERB のライヴDVD。2011年2月16日発売。

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『kocorono』メイン

▼『kocorono』
作品・公開情報

日本/2010年/116分
監督:川口 潤
出演:bloodthirsty butchers
(吉村秀樹 射守矢雄
小松正宏 田渕ひさ子)
製作:「kocorono」製作委員会
(キングレコード+日本出版販売)
配給:日本出版販売
コピーライト:(C)2010「kocorono」製作委員会
『kocorono』公式サイト
※2011年2月5日(土)よりシアターN渋谷、2月19日(土)より吉祥寺バウスシアター、名古屋シネマテーク他、全国順次ロードショー。

取材・編集・文:香ん乃 スチール撮影:五嶋 洋
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