『ソウル・キッチン』―口角あがりっぱなしの人間模様、ご賞味あれ。

  • 2011年01月25日更新

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「できることなら、お近づきになりたくない」 ― そんな面々が繰り広げる人間模様だからこそ、スクリーン越しにのぞき見したら、愉しいのはあたりまえ。

ドイツはハンブルクにあるレストラン「ソウル・キッチン」。ギリシア系移民のジノス(アダム・ボウスドウコス)が営むこの店は、彼にとって大切な城。とはいえ、いつも閑古鳥が鳴いていて、経営は火の車。そんな折、ジノスの恋人ナディーン(フェリーネ・ロッガン)が仕事で上海へ赴任した。彼女を追って中国に渡りたいジノスは、取り急ぎ、信頼できる相手に店を任せたいと考える。しかし、ぎっくり腰になってしまって歩くのもままならないわ、税務署や衛生局に目をつけられるわで、おいそれと国を発っているどころではなく……。

― 右を見ても左を見ても、「マイペース人間」だらけ。

ジノスの兄のイリアス(モーリッツ・ブライプトロイ)は、窃盗罪で服役中。仮出所して自由を謳歌するため、ソウル・キッチンに押しかけてきて「形だけの」従業員になる。

新しく雇ったシェフのシェイン(ビロル・ユーネル)は、料理の腕は抜群だけれど、手に負えない癇癪持ち。前に勤めていた店を首になった理由は、「温かいガスパチョを出せ」と言った客にキレて、テーブルにナイフを突き立てたから。あ、ガスパチョは冷製スープ、ね。

加えて、胡散くさい不動産屋、山羊の鳴き真似がやたらと巧いイリアスの悪友、ソウル・キッチンに間借りしているけれど家賃を滞納している船乗りの老人などなど、「自分のことしか考えていないマイペース人間」が勢揃い。どこを見ても、ジノスが安心して店を預けられる相手はいそうもないのだ。

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果たしてジノスは、大事な店を信頼できる人に任せて、ナディーンのもとへ旅立てるのか?

― 観ているあいだじゅう、口角があがりっぱなし。

天下一品にテンポのよいコメディである。ひと癖もふた癖もある人々に翻弄されて、痛む腰をさすりながら右往左往するジノスを見ていると、気の毒とは思いつつも、口角があがってしまう。ジノスを演じたアダム・ボウスドウコスは、俳優業の傍ら実際にレストランを営んでいた経歴の持ち主で、本作では脚本も担当している。そのため、喜劇の中にも、ぴりりと締まるリアリティが随所に効いている。

監督はファティ・アキン。凶暴ながらも哀切漂う恋愛描写が鮮烈だった『愛より強く』や、ドイツとトルコの社会情勢を浮き彫りにしたヒューマン・ドラマ『そして、私たちは愛に帰る』を生みだした俊英だ。シリアスで重厚なこれら2作を手がけた監督と同一人物とは思えないほど、ノン・ストップで軽やかに笑わせてくれる『ソウル・キッチン』。アキン監督が織りなす世界の魅力は実に幅広い。

― ビロル・ユーネルの華麗なナイフさばきに注目!

アキン作品のファンには嬉しいポイントが、もうひとつ。『愛より強く』で、狂おしい恋に堕ちる主人公を演じていたビロル・ユーネルが、本作では短気なシェフのシェイン役で出演しているのだ。撮影にあたって、ユーネルは一流レストランのシェフからじきじきに指導を受けたという。彼の特訓の成果である華麗なナイフさばきも、本作の見どころのひとつ。とくと、ご堪能あれ。

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▼『ソウル・キッチン』
作品・公開情報

ドイツ・フランス・イタリア/2009年/99分
原題:”SOUL KITCHEN”
監督:ファティ・アキン(『そして、私たちは愛に帰る』『愛より強く』)
出演:アダム・ボウスドウコス モーリッツ・ブライプトロイ
ビロル・ユーネル モニカ・ブライプトロイ ウド・キア 他
配給:ビターズ・エンド
『ソウル・キッチン』公式サイト
※2011年1月22日(土)より、シネマライズほか全国順次ロードショー!

▼『ソウル・キッチン』とファティ・アキン監督作を、もっと楽しもう!
●『ソウル・キッチン』サウンドトラック(CD)

Soundtrack
そして、私たちは愛に帰る [DVD] ニューヨーク, アイラブユー [DVD] クロッシング・ザ・ブリッジ ~サウンド・オブ・イスタンブール~ [DVD]
愛より強く スペシャル・エディション [DVD] 太陽に恋して [DVD]

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文:香ん乃
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  • 2011年01月25日更新

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