「映画の達人」- 耳をすまして聴く映画 加藤直輝監督

  • 2011年01月07日更新

クリーン_sub2 「映画は観るもの」と思われるかもしれない。しかし、今回の映画の達人の主役は音。
元ロックミュージシャンの僧侶が再度、音楽に向かう物語、『アブラクサスの祭』の加藤直輝監督は感情にダイレクトに訴えかける“音”の世界に魅了された映画人。今回は加藤監督が刺激的な音づかいに注目した「音を楽しむ映画」厳選三本をご紹介。ユニークな音が映像に影響を与える映画を耳をすまして感じてみよう。©2004 – Rectangle Productions / Leap Films / 1551264 Ontario Inc / Arte France Cinema

 音が作り出す新しい世界感
Julie Taymor Untitled 『アブラクサスの祭』の加藤直輝監督のお勧め映画は「音を楽しむ映画」。感情に直接訴えるかける“音”をこよなく愛す監督はガス・ヴァン・サント監督やオリヴィエ・アサイヤス監督の作りだす新鮮な音の世界に特に注目する。心地よいメロディだけではなく所謂、ノイズであっても、そのシーンに溶け込んで生まれる音の感触。そんなこだわりの“耳触り”から新たな映画の可能性を見出し、その可能性が『アブラクサスの祭』の音作りに注がれていく。今回は加藤監督の「音を楽しむ映画」厳選3本+監督の最新作『アブラクサスの祭』をご紹介。まとわせる音によってがらりと変わる世界観。考えるよりも感じる映画を堪能してほしい©2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved. .

  

加藤直輝の「耳をすまして聴く映画」
1. ラストデイズ
2. クリーン
3. アクロス・ザ・ユニバース
4. アブラクサスの祭

 

弦が切れても演奏し続ける緊迫感―『ラストデイズ』
ラストデイズ_サブ2劇中演奏される“Death to birth(誕生への死)”という曲はマイケルピット自身が作って歌詞も書いた曲。カート・コバーンという伝説と、俳優マイケル・ピットが自分の曲として歌うシーンはカート・コバーンの死とマイケル・ピットの生が混じり合い、音楽を通じて不思議な生と死の中間領域が映しだされます。マイケル・ピットが“Death to birth”をうたっている時に(ギターの)弦が切れて、それを引きちぎって、また歌いだすんですけれど、その瞬間でしか生まれない緊迫感があるんですね。あれは本当に切れたのか、意図して切っているのか、分からないんですけれど、多分、偶然切れたのではないかと思うんです。それでも中断せずに演奏するというのが生々しくて印象に残っています。『アブラクサスの祭』のライブシーンにも弦が切れるというアクシデントがありますが、偶然、演奏中に切れてしまったもの。けど、そのまま行けばいいやと思ってカットをかけないでいきました。ワンショットの演奏にはそういう緊張感が映し出されますね。Copyright (C) 2004 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

 

加藤直輝の「音を楽しむ映画」はこれを見ろ。
通常版ジャケメイン『ラストデイズ』(2005年 ガス・ヴァン・サント監督)
若きロックアーティスト、ブレイクはリハビリ施設を抜け出し、森の中をさまよい、やがて、彼の別荘にたどり着く。別荘で彼を迎えるのは彼の取り巻きや音楽関係者達。ブレイクは心の行き場に迷いながら、最後の二日間を迎える。ニルヴァーナ” カート・コバーンの死にインスパイアされた作品。Copyright (C) 2004 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

 

 

女の生々しいたくましさと生き様としての歌声―『クリーン』
00018主演のマギー・チャンの身勝手な女性の話ですが、もがいて生きている感じが生々しい。自分にとって一番必要なものに向かってなりふり構わないところがダイレクトに伝わってくるところが良かったです。実は『アブラクサスの祭』の撮影前にともさかさんにこの作品をお勧めしたんです。ともさかさんが演じている多恵さんっていうのがダメな夫をたくましく支えていくところがあって、方向性はちがうけれど、マギー・チャンとともさかさん、どちらも女のたくましさというか、女の強さがあるんですね。劇中、本職ではないマギー・チャンが歌うシーンがありますが、たくましく生きる延長線上で歌うというのはいいなと思いました。アサイヤス監督作品ではこの作品以外にも『デーモンラヴァー』は音づかいに注目して欲しい作品。サウンドトラックを担当したソニック・ユースとジム・オルークが作り出すノイズがシーンの中に溶け込んで、その耳触りは他の映画にはないものになっています。とても刺激的なんですよね。こういう音を聴かせることで、映画に対して普段みているものと違う体験ができるのではないかと思います。©2004 – Rectangle Productions / Leap Films / 1551264 Ontario Inc / Arte France Cinema

 

加藤直輝の「音を楽しむ映画」はこれを見ろ。
Clean_sell『クリーン』(2004年 オリヴィエ・アサイヤス監督)
ミュージシャンの夫を薬物で亡くしたエミリー。かつてはテレビにも出演する有名人であった彼女は薬物のために服役し、地位を失い、子どもと合うことも許されない。全てを失った彼女は子どもと会うため、自分を再生させるために動き出す。第57回カンヌ国際映画祭主演女優賞受賞作品(マギー・チャン)

 

 

 

映画になった音楽―『アクロス・ザ・ユニバース』
Julie Taymor Untitled一言でいうと、「映画が音楽になっちゃった」というような映画。頭から終わりまで色んな音楽で構成されているけれど、ストーリーもしっかりしています。映画全体を観て、トータルに大きな音楽になっているという作品は今まで観たことがなかったですね。ビートルズが大好きな人達が集まって観る映画で終わっちゃう可能性も高い題材だけれど、僕のようなビートルズを聴かない人でも引きこむ力強さ、パワーがあります。ライブを含めた、ミュージカルシーンは圧巻。芝居と演奏がマッチして引き込まれるんです。映画の中で人が歌う時や、ギター弾いている時、動作と音がずれていると気になるんですけど、『アクロス・ザ・ユニバース』は全くそういうのがなくて、声も楽器も合っていて楽しめました。屋上で“All you need is love”を歌うシーンはまばゆいばかりに生を肯定していて好きなんですが、ビートルズを愛してあの映画を作っている人の気持ちがビートルズファンでない人達にも伝わります。©2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved.

 

加藤直輝の「音を楽しむ映画」はこれを見ろ。
ATU-JK-S『アクロス・ザ・ユニバース』(2007年 ジュリー・ティモア監督)
イギリスの青年ジュードは、まだ見ぬ父に会うため、アメリカへと渡る。プリンストン大学で働く父と対面を果たしたジュードは偶然、大学生のマックスと知り合いになる。彼との出会いをきっかけにNYに移り住んだジュードはユニークなルームメイト達と新しい生活を始める。全曲、ザ・ビートルズの楽曲を用いたミュージカル映画。舞台劇『ライオン・キング』ジュリー・テイモア監督作品©2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved.

 

 

ライブに向かう大きなイントロ―『アブラクサスの祭』
sub1『アブラクサスの祭』は113分の一つの音楽だと思っています。作品の中に色んな章に分かれていて、ロックのライブシーンがあったり、お経を読むシーンがあったり、ぐしゃぐしゃのノイズギターが入ったり。色々あって最終的にエンディングでハレルヤがある。音楽担当の大友良英さんが作ってくださった曲は最終的にハレルヤにいたるまでの大きなイントロみたいになっているんです。映像って絶対的に別のフィルターが挟まっているというか、距離を感じますけど、音のほうがより感情にダイレクトに伝わると思うんですよ。今回の『アブラクサスの祭』は普通の作品以上に様々な物音、ノイズを出してもらって、それを録音部や効果のスタッフと密にコミュニケーションをとって合わせているので、ぜひ耳をすまして「聴いて」もらいたいですね。

 

 

恒例!靴チェック。
kato2「オールスターしか履かないんです。僕の好きだったバンドの人がほとんどオールスターを履いていたんで。」ということで監督の足元はオールスターの黒のスニーカー。

 

 

加藤直輝(かとう・なおき)監督プロフィール
kato1980年生まれ、東京都出身。立教大学在学中に映画研究会に所属し自主映画の制作を始める。2005年、同大学を卒業後、設立されたばかりの東京藝術大学大学院映像研究科に1期生として入学し、黒沢清監督や北野武監督らに師事する。2007年に大学院修了制作作品として制作した長編作『A Bao A Qu』は、第12回釜山国際映画祭のコンペティション部門“New Currents”に出品されたほか、世界各国の映画祭で上映され高い評価を得る。『アブラクサスの祭』が初の商業作品となる。

次回の「映画の達人」は瀬田なつき監督です。お楽しみに。

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文:白玉 

  • 2011年01月07日更新

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