『リトル・ランボーズ』

  • 2010年12月13日更新

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こういう作品に出逢うと、「観ているあいだだけでも、『男』になれたらよいのにな」と、女の自分は思う。『スタンド・バイ・ミー』を観たときにいだいた感慨の再来、である。

男子のノスタルジーとセンチメンタリズムが「これでもかっ!」とばかりにつまった、男子による、男子のための映画。「いつまでも少年の心を」という言いまわしがあるけれど、『リトル・ランボーズ』を観た男性は、おとななら子供時代へ瑞々しく思いを馳せて、子供なら等身大の歓びや悩みに共感して、まるで自分自身の物語を見届けたかのような心地で、エンド・ロールを眺めるのではなかろうか。

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1982年、イギリス ― 小学校5年生のウィル(ビル・ミルナー)は、戒律の厳しい母子家庭に育ち、窮屈な日々を送っている。同じく父親のいない家庭に育つカーター(ウィル・ポールター)は、次から次へと悪さをして「校内一の不良」のレッテルを貼られる一方、母や兄の興味を惹こうと健気な努力をしている。ある日、ウィルはカーターの家で映画『ランボー』を観る。娯楽と無縁の生活を送ってきたウィルにとって、シルベスター・スタローンが繰り広げるアクション映画は、想像を絶する衝撃だった。すっかり『ランボー』に魅了されたウィルは、カーターと共に自主映画を制作することになる。主人公は、ウィルが自ら演じる「ランボーの息子」。果たして、ふたりの映画制作の行方は……。

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少年時代に、「仲間と秘密基地を作って遊んだ」という男性は多いはず。ウィルとカーターが『ランボー』のパロディ映画を撮ろうと奮起する様子は、まさにあの「秘密基地建設」にそっくり。同級生や家族の目を盗んで林に入り、宝物を持ちこんで、まるで自分たちが世界を操るとでも言うかのように、瞳を輝かせて意見を闘わせる。

女子から見ると、「くだらない『ごっこ遊び』」なのだが、本人たちは、至って真剣。だが、女子だって、心底から「くだらない」と思っているわけではない。友達と協力して、ひとつのことに全力で立ち向かう男子の素直さがまぶしいから、彼らを揶揄することで、「羨望」を隠すのだ。

性格も考えかたもまったく違うウィルとカーター。だが、ふたりには確乎たる共通点がある。「父親がいないこと」、「家族との関係に悩んでいること」、「閉塞感をいだいていること」、そして、「孤独だったこと」。

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ときには喧嘩もするけれど、映画制作に没頭しているときのウィルとカーターは、自分たちを結びつけたつらい共通点を忘れているはず。ふたりのあいだに確かな友情が育まれていく過程を見ていると、「おとなになっても連絡をとりあう、あなたたちでいてね」と、祈る気持ちで語りかけたくなってくる。

同時に、女としては一抹の、だが、強烈な悔しさを味わうのだ。自分が男だったら、ウィルとカーターにもっとシンクロできたに違いないからである。しかし、おとなになった今は、彼らを揶揄することなく、正直に伝えたい。「まぶしいきみたちが、心から羨ましい」と。

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▼『リトル・ランボーズ』
作品・公開情報

イギリス・フランス/2007年/94分
原題:”SON OF RAMBOW”
監督・脚本:ガース・ジェニングス
出演:ビル・ミルナー
ウィル・ポールター
ジェシカ・スティーヴンソン
ニール・ダッジオン
ジュール・シトリュク
エド・ウェストウィック
配給:スタイルジャム
コピーライト:(C)Hammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures
『リトル・ランボーズ』公式サイト
※2010年11月6日(土)、シネクイントほか全国順次ロードショー。

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文:香ん乃
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